水明:更新される定義②
「リク、ガイスターするぞ!」
私は急いでリビングに戻り、リクを呼んだ。6×6の盤面は、実家の新聞紙を折りたたんで作った。トランプのデッキから1〜8のカードを抜き出して、赤と黒のペアに分ける。半分を盤上に並べ、残りを手札にする。
「いいかリク。パパの手札にある数字と同じカードが『悪いおばけ』だ。それ以外は『良いおばけ』だぞ」
リクにはまだ少し難しいらしく、ミサキがサポートについてくれた。
「コマを取ったときに、相手が同じ数字の手札を出してこなかったら、そのコマは良いおばけってことだよね?」
「そういうこと」
ゲームが始まると、トランプ版ガイスターは驚くほど自然に機能した。カードはすべて表向きで、数字が見えていても構わないし、手札と盤面のカードを見比べるときの目線で、コマの善悪がバレてしまうことも無さそうだ。
「パパが取ったのは、悪いおばけでしたー!」
リクが勢いよく手札を捨てる。悪いおばけを相手に取らせた時、手札から同じ数字のカードをバシッと出すカタルシスは、本家以上かもしれない。
リクもガイスターをやり込んでいるだけあって、いい勝負になったが、手札を捨てるのが楽し過ぎて、お互いに悪いおばけを3つずつ取っていた。
「リク、もう気軽に取れないな」
負けるのが怖くて相手のコマが取れないということは、出口からの脱出という第三の勝利条件でしか、勝負がつかない展開になってしまった。敵陣出口までのスピード勝負は、リクのほうが一手早かった。あとは出口を守っている私のコマ次第だ。良いおばけならば脱出できてリクの勝ち、悪いおばけならば4つ取らせて私の勝ちだ。
「パパのコマが悪いお化けだと思ってるでしょ。もしそうだとしても、……取らないと次のターンで、パパの攻めてるコマが出口に着いちゃうからね〜」
ブラフで言った通り、守っている私のコマは悪いおばけ。つまり手札にはコマと同じ数字のカードが残っている。一手前で読み間違えたフリをして、わざと負けることもできたのだが、それは相手に失礼というものだろう。リクが私の4枚目の悪いおばけに手を伸ばす。これを取れば、私の勝ちが決まってしまう。楽しい旅の思い出を勝利で飾ってやりたいが……。
「パパは取らせたいフリをしてるだけで、本当は良いおばけだー!」
リクが私の悪いおばけのコマを取ったその時、新聞紙で作った6×6の盤面の上を、猫が横切った。
(……シュレディンガーの猫)
善悪の重ね合わせだ! リクが取ったコマはまだ、悪いおばけと良いおばけが重ね合わさっている。手札を明かすことで、悪いおばけだと確定するならば、もし私が手札を明かさなければ、「良いおばけ」として確定するのではないか?
「くっそー、その数字のカードは持ってないや〜。逃げ切られた。出口から脱出されてパパの負けだぁ」
私は大げさに悔しがってみせた。リクが嬉しそうに飛び跳ねる。
「やったー! パパに勝った!」
ミサキが私を見て、小さく笑った。気づいているのかもしれない。私もオトナになったものだ。子どもが生まれる前は絶対に勝負に負けたくなかったのに、今では子ども達が楽しんでくれることが、一番の喜びだと知っていた。
「トランプがもう1つ見つかったよ〜」




