共鳴:バカ話の本質③
3人とも話し疲れて、店内のテレビに目をやっていた。量子もつれがテーマの曲を作った縁で、宇多田ヒカルが科学特番のナレーターを務めることになったらしい。聴こうと、スマホのアプリでお気に入りに登録しておく。
「量子って、あの猫のやつ?」
「うんうん、シュレディンガーの猫」
「何それ」
「箱を開けて観測するまでは、生きている状態と死んでいる状態が重なり合っている……っていう、量子のあやふやさを皮肉った極端な例え話だったかな」
「とにかく不思議なんだってことは分かる」
Queenの'39は相対性理論がテーマだという話が浮かんだが、蛇足になりそうなのでやめておいた。
「そういえばトオルって、こういう科学ネタ詳しかったよな」
「父さんが科学番組好きでさ。録画したのをよく一緒に観てたんだ。あの頃読んでたニュートンのムック本、どこにしまったかな。リクも好きそうなんだよな」
「リクって、お前の長男だっけ?」
「そう、科学のマンガやアニメばかり観てるよ」
気付くともう22時を過ぎていた。私は少し躊躇したが、ポケットからトランプを出すと、こう切り出した。
「さっきの相談なんだけどさ、おばけのコマの善悪が、相手には分からないってのが難しいんだよな」
カードを縦横に回転させたり、黒と赤のカードをグルーピングしたり、触ってみて困難さを実感したアキヤマが言う。
「こんなの無理じゃね?」
だが、イムラは余裕の表情でスマートフォンを取り出した。
「面白そうじゃん。AIに聞いてみようぜ」
トランプでの再現方法を質問すると、すぐにいくつかの提案が返ってくる。
「ダブルクリップでカードを立てる……ふむ」
これは現実的な案に思える。
「トランプを2枚重ねて5ミリずらして貼り合わせ、手前からだけ数字が見えるようにする……これ、動かすときにずれないか?」
父が揺れる船の上で、慎重にコマを動かしている姿を想像すると、少し可笑しかった。
「水の表面張力を利用してカードをずれにくくする……マジックみたいで面白いな」
「カードの反りを感触で判別する……何度も触って確認してると読まれそうだな」
質問を変えたり、補足を追加してみたが、革新的な解決策は引き出せなかった。
「AIって神みたいに万能かと思ってたけど、意外とそうでもないんだな」
アキヤマの感想に、イムラが付け加える。
「でも、要点を整理するのは上手いよな。分析の最初に『ガイスターの本質は、6×6の盤面と自分だけに善悪が分かるコマです』って言われたときは、正直ゾクッとしたわ」
たしかに、あれは象徴的だった。
結局、解決策は見つからなかったが、二人の元気そうな顔を見られたことが何よりの収穫だった。
「最後は悪かったな、付き合わせちゃって」
私が謝ると、アキヤマが笑った。
「いいって。久しぶりに頭使ったし」
「嫁さんと子ども達によろしく。あと、おばさんにも」
イムラもアキヤマも、律儀なところがある。
「じゃあ、またな」
私達は次の再会を誓い、手を振って別れた。明日は花火大会がある。




