迷宮:実家のあしらい方①
ミサキと帰省の話をしたのは、5月の連休明けだった。もとはこの連休に帰るつもりでいたが、せっかくならば実現させたい計画を思いついたので、少し先延ばしにしていた。
「そういえばさ。俺が地元を出てから、夏祭りの花火が、実家の近くの海岸から上がるようになったんだって」
夕食のあと、ミサキに何気なく話しかけた。
「へぇ、そうなんだ! ……なったんだってって、トオルは見たことないの?」
花火大会は7月最後の土曜日と決まっている。その時期はまだお客さんも平常運転で、長期の休みは取りにくいため、結婚する前からまだ一度も観に帰れないでいた。夏祭りに合わせて有給休暇を取得した話をすると、ミサキにも計画が伝わったようだ。
「みんなで花火を観に行くってことね!」
「そうそう。地元にいた頃は、会場のすぐ近くの友達の家の庭で、バーベキューしながら観てたんだ。でっかい花火が真上まで届くくらい近くてさ。朝になるとみんなで燃え残った火薬の玉を集めに行くんだよ……」
大げさな手ぶりで熱弁し過ぎたのか、ミサキの顔を見ると、信じていないことが一目で分かった。
「それはさすがに盛ってるでしょ。でも楽しみね。子ども達も喜びそう」
出発当日の朝、私はトイレにこもっていた。お腹が弱いのは昔からで、落ち着くまで出られない。狭い空間では、つい考え事をしてしまう。
「パパまだ〜? もう電車の時間に間に合わなくなるよ、ってママが言ってた」
扉の向こうからレンの急かす声と、ミサキの無言の圧力が伝わってくる。私は慌てて水を流すと、荷物を抱えて玄関へ向かった。
飛行機の中で、レンが窓に顔を押し付けて雲を眺めている。リクはゲームに夢中だ。末っ子のアキラは、耳の不快感に耐えきれず、ぐずっていた。ミサキが優しく「アメ舐める?」と声をかけている。
空港から電車、タクシーと乗り継ぐと、長旅に疲れた子どもたちは、車内でうとうとし始めている。途中、実家近くのコンビニに寄ってもらい、タクシーが家の前で停車したのはお昼を過ぎた頃だった。
「着いたぞ〜」
私が声をかけると、子どもたちは眠い目をこすりながら手を伸ばしてきた。玄関の扉が開き、母が笑顔で出迎えてくれる。
「まあ、よく来たわね。大きくなって!」
「おばあちゃん!」
子どもたちが嬉しそうに声を上げると、母は子ども達の頭を次々に撫でていく。
「さあ、中に入って。疲れたでしょう」
私たちは促されて家の中へ入ると、一番広い居間に通された。休憩もそこそこに、ミサキが荷解きに取りかかると、横で見ていたリクが突然叫んだ。
「あれ? ガイスターは? 持ってきたよね?」




