第八話 ペアレントコントロール
慌ててリビングに降りた僕達。
マツバラさんは、オウスケ君の手から急いでスマホを受け取った。
電源は入ってる。パスワードも設定されていない。
ただ、圏外だった。
日時の表示も『0』の数字が並んでいる。
「くそっ!!」
マツバラさんの苛立つ声がリビングに響く。
そのスマホを感情的に投げ捨てようとしたマツバラさんの手を受け止めたのはヒヨリだった。
「もう少し中を見てみましょう。何か手掛かりがあるかも」
ヒヨリはマツバラさんの手からそっとスマホを受け取り操作する。
ホーム画面からアプリを一つずつ開き、チェックしていった。
それを横から眺めるが、変わったアプリは入っていない。
初期から入っているアプリが殆どだ。
僕のスマホにはいくつかゲームアプリが入っていたりはするけれど、それも入っている様子はなかった。
写真アプリにもほとんど写真はない。
風景の写真や、塾か何かの日程表を撮影したものが僅かに入っているだけ。
「これ、どこにあったの?」
「あそこ」
オウスケ君が指し示したのは、キッチンの戸棚の中だった。
どうしてスマホがキッチンの戸棚に?
不思議に思いながら、ヒヨリの操作するスマホを見続けていると彼女がポツリと呟いた。
「このスマホ……きっと四十崎聡太君のだね。ペアレントコントロールアプリが入ってる」
「ペアレント……何それ」
「保護者管理アプリ。見たサイトや使ったアプリが全部親に筒抜けになるの」
本棚を見た感じ、四十崎聡太は高校生だと思われた。
高校生の男の子のスマホを、親が管理していることの異常さが気持ち悪い。
「そんなことどうでもいい。このスマホで外部に連絡することを考えよう」
マツバラさんはヒヨリの手からスマホを奪うように引き抜くと、そのままリビングで何かを探すように歩き始めた。
探しているのはルーターだろうか。
ただ僕は、マツバラさんとは全く別のことが気になっていた。
「ちょっと二階にいく。ヒヨリはここにいて」
「え?!」
僕は階段を上がり、子供部屋に入る。
さっき確認した時になかったから、念のため。
引き出しも全て取り外し、隠された物がないかもう一度確認した。
学習机の裏や、本棚の裏なんかも。
やっぱりここにはない。
じゃあどこに――??
本来あるとすれば自室だ。
あんな物、自分の部屋以外に置いておくなんて考えられない。
だけど――四十崎聡太の環境の事もある。
アレが部屋にないとなると、嫌な一つの可能性が浮かび上がった。
それも踏まえて、自分の身に置き換える。
僕なら――どこに隠すか。
まだ探していないのは四十崎議員のベッドルーム。
子供部屋を離れて、リビングへの階段を横切り、手前の部屋に入る。
さっきヒヨリが写真を抜き取った写真立て。
その下の収納棚に手をかけると扉が開いた。
探す物は決まっていた。
雑多な物をかき分けながら、目的なものを探す。
そして見つけた。
僕が探していたのは四十崎聡太の成長アルバムだ。
膝からはみ出るくらい、縦にも横にも大きなアルバムを開けると、そこには四十崎聡太の子供の時の写真が挟まっていた。
一つずつ捲りながら聡太の過去を遡っていく。
幼くなるに従って、聡太の笑顔が増えた。
温かい文字で綴られた母親のコメントが写真の下に挟まっている。
誕生日。
家族旅行。
初めて歯が抜けた時。
発表会。
入学式。
初めて立った時。
そして最初のページ。
しわくちゃの赤ん坊を抱いて、涙を流しながら微笑む四十崎議員の写真の下には『産まれて来てくれてありがとう』という優しく美しい言葉が綴られていた。
その写真の隣には、テープで丁寧に貼り付けられた薄いノートがある。
ゆっくりとテープを剥がし、中身を確認する。
ノートの中身は、四十崎聡太の日記で――遺書だった。




