月と自転車、僕と君。
暖かな春の日差しを浴びながら、椅子に腰かけた君の髪が風になびいていく。どこかともなく小鳥のさえずりが聞こえてユニゾンみたく子どもたちのはしゃぎ声が重なる。このベンチからは遠めの遊具で遊びまわる子どもたち。そんな風景を楽しげに眺める君の表情へ影を入れる木影。君の表情がいつもよりも引き立ってあまりに眩しさを覚えるほどの日差しが煌めくので、僕は思わず目をすぼめた。
「あはっ、変な顔、、、w」
「うるさいなぁ、、、」
君が僕の顔を見て笑う姿に、愛くるおしさから緩みきった口から不貞腐れた声を出す。
「この街はあまり昔と変わんないね。」
「そうだな…」
コロコロと笑いながら話す君の顔を横目に、僕は昔を思い出していた。
プロローグ完結
小説家は思った。もし誘拐犯が現実的ならば、非現実な誘拐犯となるのでは、と。
「…そんな非現実なこと起きるわけないか。」
そう呟きながら、河のほとりにある石を川へとフリスビーする。弧を描くように水面を飛び跳ねた自分の放った石は、反対側へ行くことなく途中で沈む。
「…さむっ。」
ふと夜の散策に出かけたくなった。そんな感情の赴くままに、ここまで来た。思った以上に長いこと川辺に座っていたからか、冷えたらしい。ましてや、冬が始まって間もないの夜だ。長居するつもりが無かったので、自分の手が隠れるほどの長い袖の薄手のジャンパーを羽織っているだけである。
「さすがに帰るか…」
冷えきって訛った体を起こして、立ち上がろうとして途中で息を殺した。同時に立ち上がろうとした姿勢も止めた。
(…土手の方で物音がする……。)
日中が快晴だったからなのか、雲ひとつ無い空には月の明かりが煌めいている。月明かりが反射しているせいか、土手の坂には影が伸びている。
(なにかをひいている…?)
思うのもつかの間、手元に残った石をそいつの進行方向の邪魔になるように投げる。
「「「「「「ガシャン」」」」」」
大きな物音がして、微かに蠢く声が聞こえる。
(けがしたかもしれない…)
投げておいておかしなことだが、なんともないような顔をしながら(上手くその表情が出来ているかは知らないが…)、土手を上がって石を投げ込んだ場所付近を見た。
「…いったぁ……」
そこには制服を着た女子高校生がいた。
「こんな時間に未成年が出歩いちゃダメだよ?」
深夜二時頃に家を出たから、まだ外は暗く1時間も経っていないだろう。
「はぁ?お兄さんこそ未成年じゃん!そっちこそ、出歩いちゃいけないでしょ?」
(またか…。)
「俺、とっくに社会人だけど?」
「へ?まじ?」
自分で言うのもなんだけど、僕の顔は堂顔だ。もう何年か前に成人になったのに、この顔のためかよく高校生に間違われる。訂正するのがめんどくさい時は学生料金で払う時もあるとか言ったら怒るんだろうなぁ。社会人といった僕のことをあからさまに驚いている表情で、やたらまじまじと見てくる少女を片隅にそんなことを考える。
(にしても、なんでこんな時間に?)
制服は泥だらけでさっきのコケただけじゃない傷跡が少女の素肌から見えた。見るからに家出少女だ。関わるだけ面倒なのかもしれない。(既に関わっているが…)
「あ、用事があるんだった。俺は帰るね^^」
軽やかに回れ左をして、歩き出そうとする。
「え、あ!まって!!」「「ガタンッ」」
背後で勢いよくたったからか、自転車が音を立てる。少女が切り出そうとする言葉なんかたかが知れてる。それに家出とみた。
「家に泊まらしてくんない?」
「やだね。」
進行方向に足を向けたまま、顔だけ少女の方を見て告げる。
「即答?!どうして?!」
「だいたい、それが目上に対する態度かよ。」
「お願いします、泊めさせて頂けませんか?
」
「無理。」
「なんでよっ。てか、待って?このケガしたのあんたのせいでしょ?」
痛いとこをつかれた。頭を抱えて、図星だと少女から分かる表情をしていたからか、
「治療代わりに、泊めさせてくれるよね?」
「はい……。」
結局、自業自得なのだが少女を、自宅に泊めることになった。なんで投げたんだよ、自分…。
「ただいまー…」
と言っても今日は一人だからかえってくる声はない。自分の口から発せられた声は冷たい家に溶け込んでいく。靴を脱いで、来客用のスリッパを持ち出し少女に履かせる。少女が履いているのを片目にダイニングキッチンまで歩き中のテーブルに案内する。
「ここに座ってて。」
食卓用のテーブルの椅子に手をポンポンと置いてスリッパを履いた後、開けていたドアから姿を現した少女に分かるようにする。
「お腹空いてる?レンチンでもいいならあるよ。」
少女は、先程から何も言わない。頷いたり、首を振ったりはしていたが、理由は分からない。まぁせいぜい追い出されると思ってるのだろうか。少女は、首を振ったからまだお腹がすいてないらしい。一応、レンチンしながら聞く。
「先に風呂入る?」
少女は、頷いた。
「ちょっと待ってね。」
耐熱容器の料理を皿に取り出してから、軽くラップをかけて、と。その後、お風呂場まで少女を連れていく。
「ここのタオル勝手に使っていいから。あ、あと使ったもんは、洗濯機に放り込んどいで。」
少女は、頷く。自分は一旦リビングに戻り、ある人に電話をかける。
「もしもし?どうしたの、珍しいね?」
電話越しに女性らしい明るい声がする。
「あー、わるい。急用なんだけど女性用の服、とってきてくんね?」
「女装?」
「んなわけないだろ笑…」
今までの経緯をかいつまんで話す。
「だから服がいるのね?」
「サイズとかもわかんねぇーし、そもそも俺がしちゃだめだろ?」
「そういう常識はあるんだ。」
確かにこんな環境下で過ごしていたら、常識外なものだらけで狂うよな、普通は。
「じゃ、よろしく。」
電話を切ってケータイをしまう。
「わっ!^^」
「はやいね?」
「うわぁ、全然おどろかないじゃん。」
電話を終了してから数秒後のことである。レンチンのタイマーをセットしていると背後に同僚の女性が現れた。
「まぁ、この世界に来て何年だってんだって感じだわ。」
「つまんなーい。けど、それもそうね。ほい、これ。」
同僚は、少し不貞腐れているかのような表情を浮かべながら食材が入ったレジ袋を突き出す。
「おっ、さんきゅー助かるわ。」
片手でレジ袋を受け取りつつ、すんませんポーズをもう一方の手でする。レジ袋の中にはじゃがいもや人参、レタスなどの野菜が放り込まれている。その場で、野菜室を開けると同僚は僕の手元を覗き込みながら少女の居場所を聞く。
「ねぇねぇー?お風呂場にいるんだっけ?」
「…いつもお前が利用してる場所。」
「きもっー!このメジャー勝手に使うねー。」
「おけっー…」
冗談で言ったつもりだったが伝わっているのか分からないような返答が聞こえたが、伝わっているということにしておこう。同僚はメジャーを取ったかいなや返事も聞かずにその場から姿を消した。その後、風呂場から家出少女と思われる悲鳴が微かにこだました。
『第22回 童話大賞』に出したもの。
未完成作品のままだったため、機会があれば続き書いて昇華したい。
ちゃんと設定まで作ってたのになw




