泣く君に、プロポーズした女子高生の話(1分で読めるショートショート)
【泣く君に、プロポーズした女子高生の話】
積乱雲が連れて来た強い雨。
見上げれば、水滴で空が隠れるほど街が泣いていた。
「なんでこんな時に屋上なのよ」
「ここなら誰も来ないし」
狭い傘の中、立ち尽くすふたり。
相手が濡れぬようお互いに寄り添う。
「今日は明るくバイバイするんじゃなかった?」
明日、私は転校する。
生まれてから17年、ずっと暮らしたこの街を離れて。
理由はシンプルで親の転勤。
来年からは受験生なのだが、私は就職組で影響が少ないから着いてきなさいとの判断の様だ。
「そのつもりだったけどさ」
傘を叩く雨の音で消え入りそうな彼女の声。
私の好きな人。
ふたりでたくさんの思い出を築いてきた。
春も夏も秋も冬も、ずっとずっと。
その日常が、今日終わる。
「遠くになるけど別れるわけじゃないし」
「でも!」
大きな声。
見上げて来た瞳から雨が降り、コンクリートの床に落ちる。
「ほとんど会えなくなって……私」
両の手で顔を隠しうつ向く。
「……ぅっ、ひっ、もうやだ」
なにか話してくれようとしているが、その言葉は嗚咽に交じり意味をなしていない。
愛されることの嬉しさと責任。
私は彼女の心を手に入れた。
だからこそ私は。
「大学進学するのよね?」
「え、うん。そっちは就職だよね」
小さくうなずく。
「目指してる大学なら私の街から通えるわ」
「え?え?」
濡れた瞳が大きく瞬いている。
「一緒に住もうって言ってるの。養ってあげるわ」
笑顔の無い真剣な顔。
彼女に想いは届いただろうか。
「……なにそれプロポーズのつも」
強く抱き寄せ唇を重ねる。
手を離れた傘が風に舞い、雨が二人を叩く。
「そうよ、プロポーズよ」
ゼロ距離で囁いた言葉。
「ばかああああ」
胸を何度も叩かれ、彼女は小さく座り込む。
その背中を優しく撫でた。
いつも私を全力で愛し、全力で向き合ってくれた大切な人を。
「ほら、もう泣かないで」
せっかく雨が止んだのだから。
雲の割れ目から夏の日差しが差し込む。