好きな子の夢の常連になりました(3分で読める百合ショートショート)
【好きな子の夢の常連になりました】
春色の朝日がそそぐ駅から学校への通学路。
クラスメイトは時折舞う桜の花びらと同じ表情を浮かべている。
「昨日ね、ひーちゃんがまた夢に出てきた」
嬉しそうな恥ずかしそうな曖昧な表情。
「また?未都の夢に私出すぎじゃない?」
「2日に1回くらい?」
準レギュラーだねと未都が屈託なく笑う。
「で、昨日は2人で何してたの?」
「おそろいの浴衣で花火大会に行ってたよ!」
「ぜつみょうに先の話題ね」
だねーとケタケタ笑う。
鉄面皮の私と違い、未都の表情は感情が溢れている。
「折角だし現実でもいこうか」
「うん!私もひーちゃんと行きたい。約束がまた増えたね」
「一昨日は初詣の約束だしね」
思わず私も頬をほころばせ、下駄箱でそれぞれのクラスへと別れた。
未都が今日も私の夢を見てくれた。
こんなことで喜べる曖昧な関係がずっと続けばと願う反面、踏み出したい恐怖が鼻腔で燻っていた。
きっと未都は好意を持っていてくれている。
でももしそれが、私と違うカタチの好意だったらと。
強がっていつもそっけない言葉を口にしているのは、きっとそれを知っているから。
だって私は"卑怯者"だもの。
未都に隠れて酷いことをしていて、自覚があるのにやめられない。
私は一つだけ超能力を持っている。
相手の夢に介入することができるのだ。
その力で未都の夢に私をだしてもらっている。
……エッチなのとかは良くないから2人で遊ぶくらいの内容だけ。
そんな些細な使い方だけど、力に気がついてすでに半年。
好きな人に少しでもこっちを向いてほしくて、私は毎晩欠かさず未都に使ってしまっている。
しかもそれを口実にデートの約束を重ねていた。
夢に出る成功率が2日に1回と完璧でないのがまたなんとも私らしいというか。
「こんなんだからだよなー」
一人憂鬱になりながら教室のドアを開けた。
「いやー今日もひーちゃんは可愛かったなー」
夢で会ったと伝えた時のあの表情。
少し前から妙に夢の話を聞きたがるから、話せる日はしてあげてる。
聞く時はいつも顔に出ないよう努力をしてるんだろう。
それでも口角がひくつきながらしっかりと上がっていたのでポイントを多めにあげちゃう。
あれでクールを気取っているのだから見ていて愛おしくて仕方ない。
話せない内容の夢まで教えたりしたら卒倒しそうだ。
いっそしてしまおうか?
「たまりませんなー」
私を好きな人の反応を見るのが面白くてついつい告白を先延ばしにしている。
自分からはスキスキオーラを大型犬のごとく全力で放っているのに、相手からの好意は鈍感にもスルーしっぱなしなところも得点が高い。
「そもそもさ」
私からの好意が伝わっていないことだけは少し不満だと頬をふくらませる。
「夢には好きな人しかでないよ」
だってひーちゃんは3年も前からレギュラーなんだから。