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似合わない服を着る彼女(百合ショート)

顔と服が致命的に似合っていない彼女。

お前もだと怒られた。

駅前の大きな商業ビル。

その中に入っている中高生に人気の可愛い系の服屋さん。

黒のキャップとスカジャンという浮いた服装の私は、少し居心地が悪い。

私だって女の子なんだから気にすることはないのだが、ここで売っているような服はあいにく好みではないのだ。


「ねえ?これ似合うかしら?」


試着室から出てきた友人。

私とは逆に可愛い服が大好きで、バイト代をよく注ぎ込んでいる。

フリルが多めの春色のブラウスがすごく可愛いくて、彼女に全く似合っていない。


「似合っていない」

「えー、そうかな?」


試着室に引っ込み、中から衣擦れの音が聞こえる。

薄いカーテンの向こうで服を脱いでいるかと思うと、少し興奮しちゃう。


「じゃあこれはどう?」


自信満々で出てきた彼女はミントグリーンのニットを着ていた。

春らしい淡い色が季節感を出していて可愛い、服はね。


「似合っていない」

「もう、注文が多いわね」


もう一度引っ込んでごそごそ。

このやり取りをはじめて既に小一時間が経過している。

私も女の子なんだから服の試着とか好きだよ。

でも今だけは彼氏が彼女の買い物が苦痛だとよく聞くのが理解できた。

申し訳ない、愛情が足りないとずっと思っていたよ。


「これならいいでしょ!」


胸を張って出てきた少女は、ロングのシャツワンピを着ていた。

抜け感があって、体のラインを隠しながらも女の子らしいシルエット。


「似合ってない」

「……ちょっと厳しすぎない?」

「あのね」


私は彼女を試着室に押し込みカーテンを閉めた。

大きな鏡に映る私達。


「よーーーく顔を見なさい」


鏡の彼女を指差す。

奥二重のキリッとした切れ長な瞳と、薄く赤い唇。

雪色の肌に細い眉。

黒く長い髪はひと目で魂を吸われそうなほど美しい。

身長も私よりずっと高く、濡れた刃物を思わせる風貌。

その顔がむにゅっと潰れている。


「あなたはね、カッコいい顔なの。可愛い顔じゃないの」


絶賛目を逸らしている少女が鏡に写っていた。

頬をムニュと潰して現実に目を向けさせた。


「服なんて好きなの着ればいいんだから、趣味は否定しない」


着ているやたら可愛い服を指さした。

似合っていなさすぎてピンク色のワンピースの上に、美しい顔が合成のように浮いている。

顔つきと服の趣味が真反対なのだ。


「でも人に似合ってるか聞くなら向いてる服にして」


ここまでズレていると、否定する方も気を使うわ。

まったくと、掴んでいた手を離すと、とても不満げな双眸がこちらを見ている。


「じゃあ私も言うけどね」


狭い室内、許す限り腕を伸ばしてビシッと私を指さしてきた。


「そんな可愛い顔してスカジャンとか着ないでくれる?」


鼻にくっつくほど近い指先。

私のスカジャンに描かれた黄金の龍が睨み返すように輝く。

友人よ、それをいっちゃあお終いだ。


「大きな目!長いまつ毛!ふわふわの髪!なにその超女の子顔!」


指が鼻にめり込んできた。

ちょっと痛い。


「その顔!私がほしかった!」


ええ、認めるよ。

私も顔と服の趣味が一致してない。

スカジャンがコスプレにしか見えていないのも知ってる。

でもね?


「私の顔がほしいだって?」


こっちも腕を伸ばして彼女の鼻頭に指をめり込ませる。

「私もその顔ほしかったわよ!」

外に漏れないよう、声を潜めて言い合う私達。

目の前に理想の顔が有って、理解に苦しむ服装をしている。

お互いの目に映るのは形は違えど同じ問題児。

見た目と趣味が不一致の友人同士……ん?


「あのさ?」

「なによ?」


不機嫌な彼女の返答。


「ちょっと服交換してみない?」


私の提案に心底嫌な顔をしている。


「いいから。ほら、脱ぎな」

「ちょっ、もうわかったよ」


渋々と言った感じで私に背を向けた、そのまま動きが止まる。

じーっと目があったままの二人。


「……むこう向いてよ」


睨まれた。

すまん、思わずだ。

体がぶつかり合う狭い室内。

お互い背を向けての着替え、なにか扉を開けそう。


肩越しに服を渡され、私も渡す。

ほかほかとした彼女の体温の服に袖を通すと、もう一つ扉を開けそうになった。

呼吸を整えてから振り返ると、既に着替え終わった少女。


青いスカジャンに白シャツ、黒のパンツ。

長い黒髪はキャップの下から自然に流れ落ちて、金の龍が睨みを利かせていた。

整った顔立ちに鋭さが加わり、試着室の鏡にはこれ以上無いほど似合った姿が映っている。


「……似合いすぎ」

「……そっちこそ」


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