表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/35

君の汗の味が好き(3分で読める百合ショート)

田舎の駅の待合室。

私達はどこまでもくだらない話をしていた。

田舎の電車の本数を都会の人に言えば驚くだろう。

20分に1本ならましなほう。

私の最寄り駅なんて90分待ちだ。

それに”最寄り”って言うけど家から駅までは自転車で30分かかるので、ぜんぜんもよっていない。

今日みたいに暑い夏の日はそれだけで汗だくになり、メイクも台無しになってしまう。

そんな駅の待合室に友人とふたり。

ゆるい冷房が効いていて少し暑いけど快適だった。

昔はこんな文明の利器はなかったらしいけど、このままでは死んでしまうと住民が自費で取り付けたって聞いた。

そんなド田舎を堪能しながら私は友人と一緒にだらだらとしていた。

「電車が来るまで30ふーん」

「いえーい」

「今日の小粋なトークは?」

「ギリギリ食べれるもので」

「いえーい」

電車を待つ時間が長すぎて、だらだら話す話題もなくなっちゃう。

だからいつも、どうでも良いお題をつくってそれについて話してた。

花の乙女ふたりでなにやってんだと自分でも思う。

「なら雛のギリ食べれるもの発表ー」

私からかー、悩んでしまう。

「……ゴーヤ。あの苦さは毒だよ」

「そう?私結構好きだけど」

「ないないない!あの苦さに拒否反応出ないとか」

思いだすだけで身の毛がよだつ。

食事に出るたびにいつもお茶で流し込んでる。

「じゃあ次はモカ」

「ウーパールーパー」

……ん?

私が理解できずにきょとんとしてると、スマホで画像を検索して見せてくれる。

愛らしいキョトンとした表情のウーパー君。

違うんだよ、見た目は知ってるんだよ。

「それがこうなる」

次に見せてくれた画像ではきつね色にカラリと揚がっていた。

「うあー」

どこかの郷土料理か何か?

こことは別の田舎で食べられているとか?

た、食べてる人がいるんだから否定は良くないよね。

「はい次はもっかい雛」

「え、ああ、うん」

すっきりとはしないけど、私は次を考えた。

好き嫌いとかあんまないんだよね。

ご飯と一緒にならだいたい美味しく食べれちゃう。

「あ!パクチー!」

ふと思いだした憎っくきあやつ。

「わかる!あれは臭い!」

今度はモカも同意してくれた。

前に一緒に行ったカフェのホットサンドにパクチーが使われてて、泣きそうになった思い出で笑いあった。

「あったね、そんなの」

「あったあった。あー次はあたしか」

少し浮かんだ涙を拭きながらモカが少しだけ考えて、何でもないように。

ごくごく当たり前のように口にした。

「ウミガメの卵」

「あの泣きながら産んでるあれ?」

「泣きながら産んでるあれ」

…………。

「食べれるのあれ?」

もし美味しかったとしても心が痛すぎるけど。

「さあ?卵だしいけるでしょ、心痛いけど」

こいつはさっきから何を言ってるんだ?

「なんかさっきから独特過ぎる」

モカは特別な世界を持っているけど今日はいつもよりエッジが鋭すぎる。

「食べなくない?ウーパールーパーもウミガメの卵も」

「雛がいったんじゃん。ギリギリ食べても良い物ってお題」

「食べないよ!ギリギリじゃなくて余裕で食べないよ!」

思わず立ち上がってぎゃあぎゃあ言ってしまう。

そんな私をモカは意味が解らないと見上げていた。

「えー、人としてギリ食べれるよ?」

「……ん?」

「……おん?」

お互い?マークが浮かぶ。

どのくらい見つめあっただろうか、私の頭の中の?が!に変わった。

「人としてって意味じゃないよ!人間やめますか?って尊厳の話しじゃないよ!?」

なんで私が、食べたら人間失格のボーダーラインの話ししたがるんだよ。

あー、とモカも納得していた。

「それでゴーヤとかパクチーって言ったんだ」

やれやれと言った感じで呆れている。

私が悪いの?

「今日の雛は沖縄やタイをディスるなって聞いてた。暑いとこ嫌いか?」

「ゴーヤもパクチーも立派な食材だし!あと苦手!」

こいつはほんとに。

ちょくちょく暴走するたびにカロリーをごっそり持っていかれる。

「余裕で食べれる物、って逆のお題なら何て言ったのよ」

疲れてモカの隣に座りなおす。

汗かいちゃったじゃん。

「雛だよ」

真横でキョトンとしてるモカ。

「え?」

「余裕で食べれるもの。雛だよ?」

当たり前のことを聞かれたように、何言ってんだって表情をしている。

「雛可愛いし良い匂いするし」

鼻を首筋に近づけて汗のにおいを嗅いでき、あろうことか舌で舐めあげた。

細く暖かい粘液が首筋を這う。

「汗もおいしいよ?」

耳元で甘い声。

「ん、ちょっ、ここじゃだめだよ」

思わず顔が赤くなって身を引いてしまった。

近かったら早くなった心臓の鼓動を聞かれそうで。

モカがそう思ってくれるのは嬉しいよ?

でもちょっと外じゃなー。

まだお昼で明るいし。

こういうのはやっぱり夜にふたりっきりでゆっくり。

――ふと見たモカは今日イチ人を馬鹿にした表情をしていた。


「ちょっろww」


「ぶっとばす!」

電車はまだ来ない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ