満点の星空と僕の後悔(3分で読める百合ショート)
星あかりの下。
僕と彼女の数分間の恋話。
月のない夜空。
満天の星がまるで僕を嘲笑うかのように瞬いている。
田舎の狭い空き地。
一人っきりになれば少しは冷静になれるかな。
そう思ったけど無理みたい。
「あれはやりすぎたよね」
僕の好きな人がクラスで責められていた。
原因はとてもつまらないこと。
成績がわりかしよくて、見た目も悪くない。
ただ少し無口で一見鼻にかけたように見える態度。
よく知ればそんなことはない。
すぐわかるのだけれど。
人は興味のないことにそこまで優しくはなってくれない。
結果、常日頃よく思っていないメンバーから集中攻撃を受けた。
陰キャは何も言い返せず、睨み返すだけ。
それが火に油を注いだ。
人格否定に近い暴言の数々。
トイレから帰ってきた僕はその様子を見て、思わずぶん殴ってしまった。
人を殴ったのなんて生まれて初めて。
なんであんなに感情的になっちゃったのか。
何もわからない。
痛めてしまった左手首をさする。
停学1週間となった僕は死ぬほど両親に怒られた。
さすがに凹んでしまい、気分を紛らわすため夜半にこっそり部屋を抜け出た。
先生の言葉、両親の言葉、全て正しいのはわかる。
僕自身も僕が間違っていると思う。
お母さんの泣き顔に心が張り裂けそうに痛かった。
でも、でも。
それでも好きな人のあんな表情を見てしまうと。
拾ってきた段ボールを敷いて寝転がった。
住宅の灯りは遥か遠く、ひとつひとつが惑星のように瞬いてる。
空は目が痛くなるほどのキラメキ。
今の僕にはちょっと寂しくなる。
「おい不良娘」
黒い影が視界を埋めた。
逆光で何も見えない。
ただ、星光が作る縁取りだけでわかった。
僕の好きな人だ。
「こんな夜中に家出してるそっちも」
長い髪が僕の鼻先をくすぐる。
皮肉っぽく影が動き、僕を蹴って段ボールの端に追いやった。
肩がふれる距離、ふたりで星空を見上げた。
「なんで僕がここにいるってわかったの?」
「あなた辛い時はいつもここじゃない」
幼馴染って怖い。
少しだけ笑ってしまう。
「んで何しに来たの?こんなロマンチックなんだし告白かな?」
「それは後でね」
鼻で笑われる。
きっとまた皮肉っぽい表情してるな。
折角可愛いのにもったいない。
「あのさ」
僕相手にはいつも普通に話せるのに、今はどこかためらいがちだ。
「明日一緒に学校行って謝ろ?」
空き地でふたり横になり見上げる眩しい夜。
僕の手を小さな手が包む。
「あいつらは私に言っちゃだめなことを言ってた」
「……」
「でもね。それでもね」
言葉に詰まりながらも必死に僕に語りかけてくれる。
「あれは絶対やっちゃだめなこと」
悔しくて悔しくて泣きそうだった好きな人。
一番堪えていた彼女の努力を無駄にして僕は。
なんて浅はかだったのか。
それでもこの人は正しいことで僕を守ろうとしてくれている。
「だね、僕が間違ってた」
好きな人が言ってくれることなら素直に聞き入れてしまう。
僕って思った以上に単純みたい。
ううん、心から尊いと思えるから好きな人なんだ。
「そう言ってくれると信じてた」
線香花火が弾けるように小さくて、どこまでも可憐な声。
こちらを見る彼女は幸せそうだった。
小さな星を沢山反射している瞳が、どんな一等星よりも綺麗で。
僕はもう一度落とされた。
「でも今日は助けてくれて嬉しかった」
僅かに染まった頬と、半分逸らされた視線。
照れくさくて僕は返事ができなかった。
彼女の口が小さく、でもしっかりと言葉を紡いだ。
「あと、好き」
「……僕も」
この人はなんかずるいな。
どうやったらこんなに優しくてまっすぐになれるんだ。
月の無い空。
流れた雲が星々を隠し、束の間の闇。
僕の唇に何かがふれた。
「今日のお礼。初めてよ?」
「……僕も」
私より陰キャにならないでよと笑う好きな人。
「じゃあ明日朝に迎えに行くから」
立ち上がり名残惜しそうに立ち去る。
「大好きだよ」
視界の外から小さな声が聞こえた。
精一杯の思いが込められた声。
雲が晴れ、薄い光。
僕はきっと、これから何度もあの星に恋をする。