犬系後輩からのバレンタインは口うつし(3分で読める百合ショート)
王子様系の後輩彼女は肉食だった。
1話完結のショートです。
「はあー、あいもかわらずオモテになることで」
嫌味全開の私の言葉。
それは紙袋片手に歩く後輩へだ。
「ただの友チョコですよ」
こいつは本気でそう思っている。
両手に持つ袋から零れ落ちそうな可愛いラッピングの数々。
こいつらは”友”じゃないと女の勘が告げている。
否定して本人が意識してもしゃくだからこれ以上はやめておいた。
「今年はなん個もらったの?」
指折り数えているが、くれた相手を思い出してるようでちょっとむかつく。
「ちょうど20個ですね」
さらにむかつく。
この後輩は弓道でインターハイに出場するスポーツ女子で、凛々しい立ち振る舞いから良くモテているのだ。
パソコン研究部という日陰な私とは違う。
いや!私もプログラミングで県大会に行ったからね!
朝礼で紹介もされたし。
そういえば彼女が私を初めて見たのもその時らしい。
モモンガみたいだなって思ったとのこと。
やっぱりむかつく。
「あ!でもまだひとつも食べてはいませんよ?」
小さい胸を張る。
うん、ここは勝ってる。
「一番は先輩のって決めてますから」
ドヤ顔が整っていてうっとおしい。
何人の乙女がこれにやられたのか、私を含めて。
少しだけ後悔をしながら部屋に招き入れる。
変に整えるのも意識し過ぎかと思い、机の上には読みかけの本が転がっていた。
「持ってくるから大人しくしてなさいよ」
了解のつもりか小さく敬礼をしている。
「……はあー」
大きくため息をして冷蔵庫を開ける。
徹夜覚悟で作ったチョコレートがちょこんと鎮座していた。
ラッピングをしたわけでもない、子皿に乗った四角い生チョコひとつ。
たぶん彼女が持っている他のチョコより大きく見劣りする。
仕方ないじゃない、不器用なのよ。
誰かへの言い訳が終わると、あきらめてそれを彼女に手渡す。
「は……ハッピーバレンタイン」
目をそらしながら渡す。
がっかりされないか怖い。
ドキドキしながら待っているけど反応が何も無い。
気になりすぎてそっちを見る。
ご主人様におやつを貰ったレトリバーがそこにいた。
「食べていい?食べていい?食べたい!!」
「好きにして」
返事より早く口に入れると幸せそうにじたばたしている。
たくさん作った中の選りすぐりの1点だ。
まずくはないはずだけど、心配でもある。
「へ、変な味はしない?」
「ん?」
不思議な表情をする後輩。
やれやれとムカつく表情とむかつくジェスチャーをしている。
「ちゅーーー」
抱きつき舌をねじ込んできた。
「なにするのよ!」
引き離そうとするが、キーボードより重い物を持たない私の腕。
ブルジョア過ぎて無理だった。
口内でうごめく甘い舌。
こんなに砂糖を入れた覚えはない。
「先輩が味を知りたいのかなって思いまして?おすそ分け的な」
「感想を聞きたかったのよ!」
顔を両手でつかみ全力で押し返すがびくともしない。
体幹が違いすぎる。
「感想?大好きだよ!!」
ぶちゅうーーー。
「くそ!犬!離れろ!」
「こういう強引なの好きなくせにーーー」