貴方の目覚ましが鳴り続ける朝(3分で読める百合ショート)
貴方がいない朝、一人で起きています。
1話完結の恋愛ショート。
ジリリリリリ
悲しい音で目を覚ます私。
広過ぎるダブルベッドで体を起こす。
枕元で私には必要以上に大きな音で鳴る目覚まし時計のスイッチを切った。
仕事の準備を始めるにはまだ少し早い。
少しだけ時間を潰してから立ち上がった。
ジリリリリリ
今日も朝が来た。
少し寒い朝。
ぬくもりを求めて手を伸ばし、空を切る。
今日は休みだと丸くなるが、寝起きの良い私に2度寝はできなかった。
ジリリリリリリリリリリリリリリ
いつまでも音を立てるブサイクな犬型の時計。
私の趣味じゃない時計。
あの人が買って、時間を設定して、置いていった時計。
起きるのが苦手で、結局目を覚ました私が毎日肩を揺すった。
その前に、少しだけ、見れる寝顔が愛おしくて。
私だけに許された宝物で。
その記憶が、彼女が出ていった今も忘れられなくて。
目覚まし時計の設定一つ変えられない弱い私がいる。
じっと揺れる犬を見ていた。
毎朝これのどこを可愛いと思ったのか考えていたけど、結局聞けずじまいだった。
聞けなかったことはたくさんあったな。
たくさん。
零れそうな心を唇で止めた。
やがて勝手に止まる音。
私は立ち上がりベランダのカーテンを開ける。
遠くの山に登りかけた太陽。
『あなたは今どこで何をしていますか?』
私のいない世界で、同じ空の下。
『いつものように笑顔でいてくれてますか?』
窓を開けて冷たい空気を吸い込んだ。
一人になって初めての季節。
私はこの呪いから、もうしばらく逃れられそうにありません。
でも、今日を生きていきます。
私は無理してちょっとだけ笑い、一歩だけベランダに出た。
「やっぱり寒いな……ね?」
誰もいない隣に語りかけた。