まずいコーヒーを君に飲ませる理由(3分で読める百合ショートショート)
映画を見た帰り、少女は不安に沈んでいた。
1話完結の百合ショートストーリー。
映画を見た帰り道。
私たちは感想戦のためカフェでゆっくりとしていた。
昭和なデザインに惹かれた店で流れるBGMは普段耳にしないジャズ。
私の前、ソファにゆったりと座る少女。
年代物の革張りと初々しい女の子はアンバランスながら、どこか馴染んでいる。
沈みかけた夕日が彼女を半分だけ照らし、美しかった。
「映画の終わりでさ。アイスコーヒー飲みながら別れ話してたじゃない」
彼女もまた同じ物を飲んでいる。
「私たちもする?」
「しないわよ」
バカと追加で言われた。
何かが胸に詰まっているのかな、いつまでもコーヒーを掻き混ぜている。
半分ほど残ったグラスの中は不規則な音を立てており、まるで困っているようだ。
私は何も言わずカフェラテをすすった。
「その時思ったの。愛情ってこんな氷と液体なのかなって」
指を止めて一口飲む。
「味わえば減って……待っていたら薄まって」
結露をまとったグラスを指でなでている。
「ずっとずっと、大切にしたいな、包まれていたいなって思うの、贅沢なのかな」
バランスを崩した氷がカランと音を立てた。
感情豊かな私の彼女は映画を見るといつもあてられる。
今日は別れを自分にあてはめ1人凹んでいた。
「良くわからないけどさ」
愛は有償であり無限ではない。
嫌いになることもあれば、見失うこともある。
私もこの娘といる事を嬉しく思うと同時に、怖いと身を潜めることが多い。
――でも、ね。
俯き気味な顎をつかんでこっちを向かせた。
少しだけ微笑みかけ、私のカフェラテをアイスコーヒーへ並々と注ぎ込んだ。
「もし愛情が足りなくなったり、薄くなったら新しく注いであげるわよ」
「……へんな味になるじゃない」
「人生苦みが必要な物さ」
おどけて空になったカップを置いた。
彼女が笑いつつ、少し美味しくなさそうに、アイスコーヒーだった物を飲みほした。
「それにもしなくなったらさ」
私はスタッフ呼び出しボタンを引き寄せ、指ではじく。
「おかわりをしていくらでも君に注ぐよ」
氷が解けてどこか安心した彼女の顔。
安心して、無くならないよ。
私はよくばりなのだ。