玄人向けの彼女(3分で読める百合ショートショート)
好きな人だから虐めたい。
いびつな恋愛を描きます。
声が好き。
彼女は私によくそう言ってくれる。
お願いをされ、耳元で囁いたこともあった。
その彼女が私の前にひれ伏していた。
あろうことか私とのデートに寝坊したのだ、私との。
そんな彼女を部屋の床に正座させ上から見下ろしている。
「なんでこんなことになったの?」
私の低い声。
怒りを抑えているつもりだがどうしても滲み出てしまう。
「ごめんなさい!携帯の充電が切れててアラームが」
私は悪く無い、そう叫んでいるようにしか聞こえない。
髪をつかみ引き寄せる。
「言い訳?」
苦悶に歪む少女の顔。
「ちが……います。やめて、痛い」
縋る手を払い、そのまま額を床にこすりつけさせた。
小さな悲鳴と、苦しそうな呻きが聞こえる。
私は意に介さず、上からさらに強く押し付けた。
「違わないよね?」
耳元で大きな声を立てて責めた。
彼女は大きく引き付き、小さく震える。
「ごめん、もう二度と」
「……ごめん?」
髪から手を離し、彼女の向かいにある椅子に腰かける。
「言葉は選びなさい。私いつも言ってるわよね?」
「……申し訳ありません。お許しください」
恐怖に震える美しい髪。
その後頭部を私は踏んだ。
……。
……。
……。
「ギブアアアーーーーーーーーップ!」
私は椅子から飛び出し部屋の隅まで逃げ出した。
「ええええええ、まだ物足りないよ」
勢いよく顔を上げた彼女は恍惚としている。
「私の彼女いつからこんな変態になったのよ!」
「そんな!育ててくれたの君だよ!」
「育ててないよ!初めからサラブレッドだったよ!!」
逃げた私ににじり寄る彼女。
黙っていれば和風美人な風貌は残念美人となっていた。
「もー雰囲気壊れたから初めからね?」
「やだよ!私遅刻なんかで怒らないし」
逃げ場のない私は小さく座り込み震える事しかできない。
さっきまでとは真逆であった。
「この後はー私のお尻を思い切り―」
彼女の手には黒い鞭が握られていた。
「なにそれ!初めて見た!どこで買った!!」
「タイムセールで割引されててね」
なんだその邪悪なお買い得。
私の肩に彼女の手がかかる。
差し出された鞭には『玄人向け』、そうシールが貼ってあった。