カメラ越しに見る君はいまいち
カシャッ
軽快な音で私のスマホは世界を切り取った。
部活帰りの少女は少しだけ日焼けしており、汗で前髪が額に張り付いている。
「ちょ、お姉ちゃん勝手に撮らないでよ」
ちょうど一回り年下の従姉妹の怒り顔が画面に映る。
大きく口を開けてドーナッツを頬張る姿が齧歯類のようで可愛くてつい。
「でもそのお土産美味しいでしょ」
「うんうん!すごいこれ」
中学生のこの娘とはお互い一人っ子というのもあって、昔から姉妹のように仲が良い。
今日も大阪に出張に行った際、話題のドーナッツを買ってきたので渡しに来たのだ。
「あんた貰ってばかりじゃなくてお茶くらいだしなさい」
彼女の母――叔母が冷たい紅茶を置いてくれる。
「お姉ちゃんは甘いのが好きなんですー」
ムカッと来たのか従姉妹がガムシロップをくれる。
見た目も性格も似た母娘。
おもわず吹き出してしまう。
「じゃあ私はもう行かなきゃだから。あの子に宜しくね」
叔母は小さく手を振り、自分の弟への一言を残して消えた。
「やっと行ったよー」
「いいお母さんじゃない」
冷たくて甘めの紅茶を飲む。
「そいえばお姉ちゃんなんで撮ったの?可愛かったから?」
たいして無い胸を張る妹。
諦めろ妹、それは恐らく血筋だ。
「あんたくらいの年は少し見ないと顔つき変わるしね。思い出よ」
私の写真フォルダには無数のこの子の写真があった。
産まれて間もないころ、幼稚園でお遊戯をしているころ。
嬉しそうにランドセルを背負ってるころに、中学で部活に汗を流している今。
ええ、姉バカの自覚はしっかりとあるわ。
「えーなら私もお姉ちゃんの写真も私撮ろうかな」
「……会うたびに老けてると?」
「ちゃうちゃう!」
手を大きく振る妹。
「そうじゃなくてこう、たまに見返す的な?」
「来年受験生なんだから勉強しなさいな」
私もドーナッツを1つ取った。
この子みたいに2つも3つも食べる勇気はないが、まあひとつだけなら。
「それにしても最近のカメラすごい」
先ほど撮ったばかりの写真を見る。
私が学生の頃のスマホの写真は撮ったものをそのまま保存する、当たり前の物だった。
しかし最近のアプリは撮影するだけで美肌から、目の大きさまで自動で修正してくれる。
「これデフォルトのカメラでしょ?私たちのもっと凄いよ」
差し出されたスマホの画面には、友達と楽しそうに自撮りする妹――のような誰か。
いやもうこれは絵画だろ。
別物というか少し人間としてのバランスが崩れてるんではないか?
そう思えるくらい加工されていた。
「可愛いでしょ?」
無邪気にほほ笑む妹。
画面と本人を交互に何度も見返す。
「いや本人の方が可愛いし」
ぼそっと私。
「……」
「……?」
妹がバンバンと強く肩を何度も叩いてきた。
「もー!お姉ちゃん!ちゅーでもしてあげようか?」
迫ってくる妹の顎をつかみ押し返すと、その変顔も撮影した。
「なーーーー!今のはだめ!」
画面の中には綺麗に整えられた妹。
もう一度本人と何度も比較してみた。
「なによ、やっぱり本人の方が可愛いじゃない」