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告白はよく煮えた大根と一緒に(3分で読める百合ショートショート)

前髪が凍りそうに寒い夜。

出張中の私たちは全ての業務が終わった開放感から祝杯をあげていた。

「いやー、ほんと頑張ってくれたね」

「先輩が色々教えてくれてたので」

照れているのかお店が暑いのか、はたまた酔ったのか、後輩の頬は茹でだこになっている。

「まあ飲みねえ飲みねえ」

空になっていたお猪口に熱燗を注ぐ。

向かい合って座る二人の間では、お鍋がもうもうと湯気を上げていた。

「そういえば先輩、前に仕事ができる人がタイプって言ってましたよね?」

「え?あ?うん。どしたの急に」

疲れと開放感からか、私たちのテンションはいつもよりふたつくらい高めだ。

だからかもしれない、後輩が暴走したのは。

「この数日の私……仕事できてませんでした?」

「……ん?」

アルコールが回る脳で必死に考える。

あれか、私は今口説かれているのか?

どんな人からでも好意は嬉しく思うけども。

「その時に雰囲気を大切にするって話さなかったっけ?」

「してました!」

ふたりの真ん中で煮え立つ鍋。

火を弱火にした。

「……告白は、おでんの前じゃなくて良くない?」

カツオ出汁の良い匂いがする。

「あ、大根好きだったよね。私のも食べな」

取り箸で渡す。

お礼を言って頭を下げてきた。

「えーとご回答は?」

熱燗に出汁を入れて飲む。

「演歌が流れる居酒屋で愛を語り合う趣味は持ってない」

手を挙げて店員に七味と熱燗のお代わりをお願いした。

「そんな。私すごい緊張したのに」

「私だって女なんだから素敵に告白されたい」

すじ肉を奥歯で噛み締める。

じんわりと深い味がしみだしてくる。

うん、絶対今じゃなかったはず。

可愛い後輩としか見ていなかったからなんとも返事に困る。

そうなんだよ、顔だけはまともなんだ、顔だけは。

「……なにおでん鍋みてるの」

「このちくわ、ごぼうが刺さってますね」

「ん?ああ、美味しいわよね」

取って頬張る。

「ちょっと卑猥だなって」

「食事中の下ネタは大っ嫌いよ」

ひっぱたいてやろうかと思った。

「ちょ、やめてくださいよ先輩。妄想激しいんだから」

「あんたひっぱたくわよ」

今度は口に出した。

いつもこんな調子の後輩を女の子としてみることなんてあるわけがない。

「仕事を頑張ってたのは認めるけど、それとこれは全くの別」

チェイサーのビールを飲むと、冷たさで少しだけ酔いがさめた。

「明日朝しらふで同じこと言えるならちゃんと聞いてやる」

せっかくのおでんが台無しだと、ぶつくさ言ってしまう。

「え?朝チュンモーニングコーヒーですか?」

「セクハラで訴えるわ。法廷で会いましょ」

付き合ってられん。

大きく日本酒をあおった。



「……どうしてこうなった」

ビジネスホテルの朝。

起きると横に後輩が寝ていた。

「んー、せんぱいしゅき」

物音で目を覚ましたしらふの後輩が言った。



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