40歳の課長と20歳のインターン(3分で読める百合ショートショート)
会社の喫煙室できつめのタバコを浅く吸う。
若いころは肺までしっかり煙を入れていたが、40歳を超えるとさすがにそれもきつくなった。
それでも軽いものに逃げないのは意地か何か。
今日は比較的早く帰れるかなと、机に置いてきた残業を思い出す。
「課長くさいー」
「吸わないなら出ていきたまえインターン君」
「私の名前は君江ですよ」
うちから内定が出ている比較的優秀な女子大生。
3カ月間のインターン生の部下として配属されてきた。
地頭も良くて機転も利かせられる。
5年も会社で学べばきっと貴重な戦力となってくれるはずだ。
ただし、
「この可愛い君江ちゃんといつご飯に行ってくれるんです?」
驚くほど空気は読めない。
「残り1週間のインターンを終わらせて無事大学に返す。それしか考えてないわ」
煙がかからないように吐き出す。
内定が出たからか、黒から戻した明るい髪。
脱色しているのに、なぜあれほどに艶があるのだろう。
メイクも流行りなのか私とはやり方が違う。
ここまで差があると女として嫉妬心すらわかない。
「だいたい年が倍くらい違うオバちゃんと遊んで何が楽しいのよ」
「できる女!って感じで先輩人気ですよ?」
「本当に人気ならとうに結婚してるわ」
体型くらいは気を付けているし、恋愛もそれなりに重ねてきた。
私は誰かと添い遂げる、恐らくそういうことに向いていないのだろうな。
「君みたいに若く素敵な女性が声をかけてくれるのは光栄だけど」
タバコを水バケツに放り捨てる。
「君は年の差というのを軽く考えすぎだ」
「そんなことーー」
煙の臭いがする指を彼女に向けて制止する。
「即答できるという事がその理由だよ」
未来への怖さを知らぬ若さとは、かくも眩しいものだな。
喫煙室の扉に手をかけた。
「君が出世した時には上司として食事くらいはご馳走するよ、お祝いだ」
自分でもわかる嫌味な表情で、
「早く帰りなさい、君江インターン君」
そう告げて残業へと戻った。