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娼婦と伯爵

作者: purapura

一応R15です

娼婦のアーデンが伯爵家でお仕事します

「こんにちは。アーデンさんですね。

リレンザ伯爵家、執事をしておりますルーカスと申します」


『白百合とクロッカス』

娼館では高級店と言っていい。

高級とは美人、没落貴族など上位の娼婦が所属し、料金は高い店。ハードプレイ可能な店だ。私は女衒に騙された。

今日の私は全身に噛み跡があるので休みをとっていたのに、飛び込みの指名で新規のお客が入った。

私の休みよさようなら。


私の仕事部屋に入ってきたやたらと顔のいい若い男は挨拶した。貴族の家系、又は庶子かもしれない。


「リレンザ伯爵家?ごめんなさい。

私、貴族の方って苦手で。他の子をご紹介するわ」

「失礼しました。

アンナ・フェルト男爵令嬢」

「は?なんで?知ってるの?

リレンザ家が私を笑いに来たの?

フェルト家を潰したのはあんたたちよ!」

「落ち着いてください。リレンザ家に、あの男に復讐しませんか?」

「あんた、リレンザ家の執事でしょ?」

「他言無用で」

男は微笑んで手に金貨を1枚載せた。

お金ってすごい。心が落ち着く。

娼婦なんてやってても衣装と化粧と食事で手元にはあまり残らない。下着なんか破る奴もいる。いくらすると思ってるの。


「今、リレンザ伯爵家は旦那様、つまりあの男が当主で、 1人娘のアナベル様がいます。12歳です」

「ふーん。お貴族様てすか。優雅そうですねー」

「アナベル様は小さい頃から虐待されています」

「は?娘を?」

「私は、お嬢様を助けたい」

若い執事の目は真剣だった。


アナベルお嬢様とやらの母親である、マリー叔母様のことは何となくしか覚えていない。私を銀髪の碧い目にしたらそっくりだと言われたことがある。

私が子どもの頃、マリー叔母様が嫁ぎ先で何らかの不祥事を起こし、実家であるフェルト男爵家はリレンザ家の怒りのままに潰された。

私はそのまま平民暮らしになったが、困窮し娼婦になった。


「虐待って言っても大したことないんでしょ」

私みたいに噛まれない。お嬢様だから。

「お嬢様は3歳頃から毎日のように叩かれ、

蹴られ、殴られていらっしゃったそうです」

「待って。何それ。誰も止めなかったの」

「諫言を申し上げたものは皆退職させられました。暴力はその度にひどくなりました。

私がお屋敷に来たのはお嬢様が5歳の時です。その頃は鞭で打たれてました」

「鞭!子どもが?生きてるの?」

「私が治癒魔法を使えるので雇われました。」

「それは」

何も言えなくなった。

治癒魔法使いを雇うほどの虐待を受けてる。

「治癒魔法と言っても傷を治すだけですが。」

それでも。痛いものは痛い。

「問題は、お嬢様が最近、旦那様の視線がおかしいと」

「何それ?」

「お嬢様が大人になってきて、身の危険を感じていらっしゃる」

「まさか実の娘に?」

「マリー様には間男がいた。元婚約者です」

「!」

だから、フェルト家は没落したのか。

叔母様への制裁で。

「旦那様は娘ではないと思ってらっしゃる」

叔母様、信じられない。妊娠した時期の浮気か。

私は娼婦になってしまったが、貴族令嬢としてはとんでもなく非常識だ。

女性の浮気には刑罰こそないが、社会的制裁はある。

アナベル様は本当にお気の毒。

伯爵も一部気の毒。虐待は絶対だめ。

叔母様はクズ。


「そういったわけで、私は旦那様に引退して蟄居して頂き、お嬢様に伯爵家を継いでほしいと考えています。」

「気持ちは分かるけど、それが私と何の関係があるの」

手の上の金貨が増える。

「アーデンさんは、アナベルお嬢様によく似ていらっしゃいます。

つまりマリー様にも似ているはず」

「叔母様は銀髪だと聞いたわ」

「色を抜く染め粉を準備致しました。

銀髪は無理かもしれませんが、薄い金髪にはなるかと思います」

「本当に準備万端ね」

私はライトブラウンの毛先を指先で巻いた。

「旦那様が使い物にならなくなれば、爵位の譲渡が認められます」

「何をすればいいの?」

「お酒を飲ませてほしい。詳しいことは知らないほうが顔に出ないでしょう。

リスクは高いですが、報酬はお約束します」

手の上の金貨が増える。

毒かな?見つかったら縛り首。

家族は離散したし悲しむ人はいない。

常連のお客さんも、きっとすぐ忘れる。

今より悪い人生なんて。

「条件がひとつ」

「何でしょうか」

「私の体、傷だらけなの。治してもらっていい?」

「それはいいのですが、ああっ、待って」

私はとてもいい笑顔で服も下着も脱ぎ、彼の前に立った。

「お願いね、執事さん」

「脱がなくても、いいです。服着て服」

「私、従姉妹と似てるの?体も似てる?うふふ」

彼は真っ赤になり目を逸らしながら、古い傷まで綺麗に治してくれた。

可愛いなあ。お嬢様が大事なのね。


「はじめまして。『白百合とクロッカス』

から参りました。アーデンと申します。」

「ああ、そこに………マリー?マリー!

生きてた。やっぱり私のマリーだ」


この男か。

貴族らしい、神経質そうな中年の男。

フェルト家の仇。叔母様の被害者。


私は無邪気に微笑んで

「わたくしのこと、マリーと呼んで下さるのですか?」

「当たり前じゃないか可愛いマリー。

愛してる。愛してる。寂しかった。」

いきなり抱きついてきた。

「はやく」

そのままソファーに押し倒そうとする。

ベッドマナーも何もない。がっつきすぎ。

「待って、旦那様」

軽く腕で押し返す。伯爵の唇を指で触る。

「わたくしね、緊張してるの。少しお酒、飲みましょう?」

不満そうな顔をして

「じらすのか?」

「2人の時間を楽しみたいだけなの。ね?」

2本目のお酒には何か入ってるのね。

1本目のお酒を口に含み、伯爵に口移しする。

「マリー。大胆だな。可愛がるからな」


ノルマのお酒を飲ませた後は、きっちり仕事した。

私が旦那様を可愛がってやった。

サービスしてもらうだけの貴族の男がプロの娼婦の技に勝てるはずがない。

ベッドの上でぐったりしている。

へろへろだ。

甘いわね。

「マリー……すごい。どこでそんな……いや。体がふわふわする」

「旦那様のために頑張ったの。旦那様も素敵でした。また、わたくしと会ったら気持ちよくしてね」頬にキスする。

別に気持ちよくもないがサービスの一環だ。

そしてふわふわはどっちの意味だろう。


「お疲れ様でした。どうでした?」

「上々だと思うわ。マリーって呼ばれた」

「ではこちらを」

報酬を受け取った。

それでは部屋に入る前にもらったのは口止め料か。太っ腹だ。

「次に呼ばれなかったら、計画はどうなるの?」

「1回摂取することが大事らしいです。」

怖いお薬ね。やっぱりあの薬かな。

お店から気をつけるように言われているの。

お客からの飲み物はもらうなとか。


「マリー、君は素晴らしい。

会いたくてたまらない。体がうずくんだ」

それ違うやつかも。中毒じゃない?


「マリー、会いたかった」

彼の中では別居して時々会う関係、になってるらしい。妄想がでている。

今日はねちっこかった。

この辺りでお嬢様への虐待は止んだと聞いた。そのかわり、薬を薬と分からず求めているらしかった。


「マリー、マリー!愛してる」

最近正気の時間が減っているのではないか。

ここまでくると可哀想になってきた。


「マリー、君と……」

お酒を飲ませてもいないのに、呂律が回っていなかった。なんだか、哀れだ。

フェルト家の仇がこんなになってしまった。


「ルーカスさん、こんなにもらって大丈夫?」

「もちろん、アーデンさんのお陰てすから。」

「こんなに早く進むものなの?」

「お酒は薬の吸収をよくしますからね。

そろそろ別荘に住んで頂きます」

「それじゃ私の仕事はおしまい?」

「一緒に行かれます?」

「あはは。身請け金が無いわね」

「アーデンさんさえ宜しければ?」

ルーカスさんと軽い冗談を言い合っているつもりが、悪くないことに気づいた。

「ルーカスさん、冗談じゃなくて」

「アーデンさんこそ」

「本当に?」

「ちょっと。条件を決めていいですか?

金額が多いので私の裁量では無理ですが、

上司に相談します」


リレンザ伯爵家から娼館の身請け金を払ってもらい伯爵と別荘に住むことになった。

海は見たことない。楽しみ。

介護人は数人雇われ、お手当てはつく。

娼婦引退後の人生に悩んでいたので丁度

良かった。


別荘に行く馬車の前でルーカスさんとお嬢様に別れを告げる。

従姉妹だと言ってしまった。

勝手かもしれないが、私という人間が存在していたことを貴女に知ってほしかった。


馬車が動き出す。

私の旦那様は手足を縛られ、座席に固定されている。時々暴れるから仕方ない。


私は、この人から離れるには情が移りすぎたのだ。馬鹿だな、と自分でも思う。

マリー叔母様に言ってるのは分かっているけ

れど、愛してるとか大好きとか幸せとか嬉しい言葉ばかりくれた。

娼婦にそんな言葉を言う男なんてほとんど

いなかった。

口先だけで言っても見下してるのは分かる。

結果がどうであれ、伯爵は叔母様をとにかく

愛していた。眩しいくらい。


国教の強いこの国で、娼婦を引退してどんな生き方ができるというのか。

私の感情とメリットの両立がこの道だ。

この人の世話人兼愛人になることが、私の第2、いや第3の人生だ。

男爵令嬢から娼婦、廃人の伯爵の愛人。

どんな業を背負ったらこんな人生になるのか。


旦那様が顔をあげた。

「マリー」

「はい、旦那様」

「マリー?いや、君は?アンナだ。フェルト家の」

私の失われた名前。頬に、涙が流れた。

その後旦那様はまた夢の世界へ旅立ち、

2度とアンナと呼ばれることはなかった。

アーデンさんは男爵家出身なので貴族の常識が

少し残っています

娼婦の子どもを皆で世話していたので、実は子ども好きです。

ルーカスさんの出世がとんでもなく速いのは

気にしないでいただけると嬉しいです。

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