てんで悪魔にならない話
一話 俺と番になってくれ!
<波>
20歳。誰かに必要とされたい。
<ガイ>
20歳。番を探している。
<メリア>
22歳。ガイの姉。野菜やフルーツを育てている。
雨の日、河原に男が一人座っていた。
ポツリポツリと漆黒の髪から雨の雫が伝い落ちる。
背は2mを超えていてガタイが良く、フードを被っていて明らかに怪しいので誰も近づこうとはしない。
そんな中、傘を差した一人の女、波が近付く。
波「大丈夫ですか?」
男はチラリと波を見た。
男は今にも死んでしまいそうなほど青白い顔をしていた。
波「あの、とりあえず病院に行きましょう」
男は首を横に振る。
波「でも・・・分かりました、それならとりあえず雨が当たらない場所に行きましょう?」
波はせめてこの男の人を雨の当たらない橋の下の屋根がある場所まで連れていこうと考えた。
男は黙って頷く。
波が手を差し出し、その手が触れた瞬間。
男の体が突如光出した。
波「え、な、なに!?」
すると先程までの顔色の悪さが消え、男の顔に赤みがさす。
男は目を見開き波以上に驚いた顔をしている。
ガイ「あんた、今何したんだ?」
波「え?私は何も・・・」
ガイ「今のは紛れもなく"あの力"だ」
波「あの力?」
ガイ「あんた、俺と番になってくれ」
ガイは波の手を取りそう言った。
波「な!?な、何を言って・・・」
ガイ「あんたがいれば俺は死ななくて済むんだ!」
波「知りませんよそんなこと!元気になったなら離して下さい!」
ガイ「なら俺はこのままここで死ぬのを待つ」
波「何言ってるんですか、ダメですよ死ぬなんて」
ガイ「仕方ないだろ、俺たち悪魔は番なしじゃ生きられないんだから」
波「え、悪魔・・・?」
男は被っていたフードを脱ぐ。
鷹のような鋭い赤い瞳、剥き出しの牙、少し長めの真っ黒な髪。日に焼けた肌。
波「悪魔の仮装・・・?こんな梅雨時期に??」
ガイ「仮装じゃねぇ本物だ」
波「悪魔なんているわけないじゃないですか」
ガイ「実際いるんだよ、空も飛べるし壁も素手で壊せる、ただ今は体が弱っていてそれができない、なんなら羽根も生えてる」
波「は、羽根もあるんですか?」
ガイ「弱ってくると小さくなるんだ、なんなら裸になってやろうか?」
波「い、いいです!いいです!でも、何でまたそんな弱ってるんですか」
ガイ「こっちの世界では20歳までに番を見つけないとこうなっちまうんだ
悪魔界で見つからなければ人間界で
ただ、ほとんどの奴は悪魔界で見つからなかったら死を選ぶ奴が多い
俺はまぁ訳あって人間界に来た
それだけだ」
波「そんな話、信じろって言うんですか?」
ガイ「信じてくれなくてもいい、だが、あんたがいないと死ぬのは確かだ」
波「そんなこと言われても困ります・・・」
ガイ「そうか、ならこのまま俺は死ぬのをここで待つ
もう探す体力もないしな」
私は一度は帰ったものの、彼のことが気になって仕方がなかった。
チッチッチ。
時計の針が動くたびにそれは大きくなった。
握られた手の体温が忘れられない。
あの人、あのまま今もずっとあそこにいるのかな。
チッチッチ。
ついに波は傘を持って飛び出した。
あの場所へ。早く。
一度衝動に駆られた波の足は止まらなかった。
理由なんてなかった。
今まで生きてきてあんなに激しく求められたことがなかったから彼の言葉が本当は嬉しかった。
それだけだった。
波が河原にたどり着くと俯いて弱っている彼の姿が見えた。
苦しそうに肩で息をしているのが分かる。
これは演技なんかじゃない。
私は近付いていき彼の肩にそっと触れた。すると彼の体がまた光に包まれ、光が消えると顔色が先程と同様に良くなっていく。
ほんの少し肩に触れただけ。
本当にたったこれだけのことで良くなるんだ・・・。
すうっとこちらを除くように彼は見た。
ガイ「何で戻って来た?」
波「私、あなたと番になります」
ガイ「それ、本気で言ってんのか?」
波「はい」
これがガイとの出会いだった。
二話 悪魔と共同生活
波の部屋に到着。
波の部屋はマンションの4階の角部屋にある。
8畳のキッチンと8畳の寝室、バストイレ別の1LDKだ。
ガイ「ここがあんたの部屋か、やっぱり悪魔界とは全然違うな」
波「悪魔界はどんな部屋なんですか?」
ガイ「悪魔界はそもそも家を持たない人が多い」
波「え!?野宿ってことですか!?」
ガイ「ああ、だいたい木の上で寝るか洞窟で寝るかだな」
波「す、凄い・・・」
ガイ「旅してる奴が多いからな自然とそうなる、
けど家を持つ奴もいる、俺の姉貴は家を持ってて野菜育ててる」
波「お姉さんいるんですね」
ガイ「ああ」
波「じゃあ悪魔界の人たちは仕事はしないんですか?」
ガイ「仕事してる奴はごく稀だな、ただ、野菜とか果物育てたり狩りに出たりすることはあるからそれが仕事って感じ、まぁそれも気が向かなきゃやらねーけどな」
波「なんか随分自由ですね」
ガイ「人間界みたいに国をまとめる奴なんかいないからな、その分やりたい放題な奴が多いから治安は悪い」
波「それは怖いかも・・・」
イメージが貧困な波の頭の中で無法地帯のスラム街を想像する。
ガイ「だろーな、あんた、いかにもすぐ死にそうだし」
波「う・・・てゆーか、そろそろあなたの名前教えて下さいよ、私たち番・・・になったんですよね?」
確認するのが何とも言えず恥ずかしい。
ガイ「あーそうだったな、俺はガイだ」
波「私は波です」
ガイ「そんな畏まんなよ」
波「そ、そう?分かったよ」
ガイ「波、これからよろしくな」
波「う、うん、よろしくね」
ぎゅっと手を握り握手をする。
あの時と同じ。大きくてゴツゴツした手・・・それなのに温かくて安心する。不思議な感覚だ。
ガイ「とゆーわけで」
波「?・・・ひや!?」
言うや否やいきなり床に押し倒される。ラグが敷いてあり、ガイが頭を手で庇ってたから痛みはないのだが・・・。
波「ちょっ、ちょっと!いきなり何するのよ!」
ガイ「何ってセックスだろ、番なんだから当たり前だろーが」
波「急過ぎよ!私あなたのこと何も知らないのに!それに私コンドーム持ってないし!」
ガイ「コン??何だそれ」
波「やっぱり知らないのね、避妊具よ」
ガイ「避妊具?」
波「セックスしても子どもができないようにする道具のこと!」
波は顔を真っ赤にしながら必死で説明をする。
ガイ「へぇ、人間って変わったことするんだな」
波「とにかくどいて!」
波がペシペシとガイの胸板を叩く。当然ガイには1ミリもダメージはない。
ガイ「そーゆーことなら大丈夫だ」
波「あなたが大丈夫でも私は大丈夫じゃないのよ!」
ガイ「悪魔と人間じゃ子どもはできないから安心しろ」
波「へー・・・そうなの?」
ガイ「そ、絶対できない」
ごそごそ。ガイは波の服の中に手を入れ始める。
波「って!だとしてもストップ!!」
ガイ「なんだよ・・・はぁ、分かったよ」
ガイは後頭部をガシガシと掻く。
波「無理矢理はしないのね」
ガイ「嫌がってる奴を無理やり抱いても面白くないからな」
しかし、言葉ではそう言っているがガイは不貞腐れたようにそっぽを向いている。
心なしか頬が膨らんでいる。拗ねてしまったようだ。
その表情はまるで子どもみたいで波は一瞬ドキッとさせられる。
波「てゆーか、さっきの話本当なの?」
ガイ「何が」
波「悪魔と人間じゃ子どもできないって」
ガイ「ああ、本当だ、だから悪魔界で番が見つからなかったらその時点で諦めて死を待つ奴が多いんだ、
人間界に来ても子どもが作れないからな」
波「でも、あなたはそうはしなかった、どうして?」
ガイ「死にたくなかったんだよ」
波「え」
ガイ「何だよ、俺みたいな奴は悪魔界でそのまま野垂れ死ねば良かったって?」
波「ち、違う!そんなこと思ってないよ!」
ガイ「じゃーなんだよ」
波「悪魔界に番になれる人がいたら私はいらなかったんだろうなって不意にそう思っただけよ」
ガイ「まぁ、悪魔界で番がいたらそもそも人間界には来てないから波と出会うこともなかっただろーな」
波「そ、そうだよね・・・私が悪魔界の人だったら・・」
ガイ「随分お人好しなんだな」
波「別に私は・・・」
ガイ「まぁ、波が波じゃなかったら悪魔界にいたって出会ってるかどうか分からないし番になれたかどうかも分からないけどな」
波「そっか・・・そうだよね」
ガイ「何、子ども欲しかった?」
波「ちが・・・そういうわけじゃない」
ガイ「けど、確かに波には悪魔界の番のことなんて関係ない話だもんな、
いいよ、相手ができたらそいつと結婚するなり子ども作るなり好きにすればいい」
波「で、でもそしたらガイはどうなるの?」
ガイ「そんときゃ、くたばるだけの話だ」
波「そんな・・・」
ガイ「今はいるのか?」
波「え?」
ガイ「そーゆー相手」
波「いないよ」
ガイ「じゃあ見つかるまででいいから番でいて」
ガイは藁にもすがる思いで言っているようなそんな気がした。
波「だって死にたくないって言ったじゃない、そんな簡単に諦めちゃうの?」
ガイ「死ぬのは嫌だが番になった相手を不幸にさせるのはもっと嫌だ」
波「ガイ・・・」
ああ、この人優しい人だ。
ちょっぴり言葉が乱暴で強引なところはあるけど私が嫌がったらセックスするの止めてくれたし番になった私のこと大切にしてくれてる。
その言葉に波の意思が固まる。
波「私、作らないよ」
波は真剣な表情で言う。
ガイ「え」
波「ガイ以外に、その、そーゆー相手」
少し照れながらもなんとか自分の意思を伝える。
ガイ「そうか」
その瞬間、ガイの表情がふわりと和らぐ。
何でそんなホッとしたような顔するの。
悪魔なら当たり前だ番なんだからな、とか言いそうなのに。
なによ、調子狂うじゃない・・・。
でも、私は彼を死なせたくなかった。
一緒にいる理由なんてそれだけあれば充分だ。
三話 悪魔界で暮らそう
一緒に暮らし始めてから初めて波が仕事に行く日。
ガイ「仕事行くのか?」
波「うん、だって仕事しなきゃ生活できないもの」
ガイ「ふーん」
波「行ってきます」
ガイ「行ってらっしゃい」
1時間後。
ガイはキッチンにあるソファに体育座りをしてみる。
体が大きいので幾分かはみ出ている。
ガイ「波、早く帰って来ねーかな」(ぽそ)
ぽそりと呟いた声が部屋の壁に当たり跳ね返ってくる。
その後はしーんとした静けさだけが広がっていた。
3時間後。
ガイはソワソワとし始めた。
そういや、どのあたりまで離れたら発作って出んのかな。
不意に気になりガイが家を出て帰宅するまで約20分。
ガイ「ぜぇぜぇ・・・し、死ぬかと思った・・・」
結果、半径2キロでダメだった。
5時間後。
ガイはしぶしぶ波の布団に入る。
はー、とりあえずこの部屋にいれば発作は出なさそうだな。
9時間後。
ガチャ。
波「ただいまー、あれ、電気消えてる」
波は寝室のドアを開けた。
波「ガイ?ってあら?」
ガイは波の布団で寝ていた。波の枕まで抱いている。
ガイ「すぅすぅ・・・」
波「もう、体は大きいくせに寂しがり屋さんなんだから、そんなに寂しかったの?」
波はベッドの傍にしゃがんでガイの寝顔を見る。
するとすぐにガイが目を覚ました。
波「おはよう」
ガイ「んー?」
目をコシコシと擦るガイは子どもみたいだ。
波「ただいまガイ」
ガイ「おかえり波」
ガイは波の肩に顎を乗せた。
波「え、えーと、ガイ、どうしたの?」
ガイ「だって波なかなか帰って来ねーから」
ガイは肩に顎を乗せたままグリグリと動かす。
きゅん・・・、な、何よこの可愛い生き物は!
見た目とのギャップ凄すぎ!
波「それは仕事だから・・・」
ガイ「悪魔界じゃ狩りに行ったって2〜3時間だぞ」
波「そ、そんなこと言われても人間界ではそれが毎日だから」
ガイ「まい、にち・・・?」
毎日と聞いてガイの動きが固まる。
波「うん、週に5日」
ガイ「しゅーにいつか・・・」
カタコトで呟いた後、ガイの目が彷徨い始めた。
波「あのー、ガイ??」
ガイ「そんなに離れてたら死んじまうだろーが」
波「でも、ほら今日は大丈夫だったでしょ?」
ガイ「この部屋から出なければ大丈夫だった」
波「え、まさか出たの?」
ガイ「ああ、どのくらい離れたら症状出るかと思って、そしたら1kmくらいで発作が出て、2kmで死にかけて戻って来た」
波「もう、勝手にそんなことして危ないじゃないの」
ガイ「だって波がいなくてソワソワして・・・」
しゅーんとなっているガイを見ると怒るに怒れない。
まるで大きな番犬のようだ。
波「困ったな・・・こっちでは仕事しないと生活はできないし、かといってガイを人間界で働かせたりしたら大問題になるし・・・うーん」
波は顎に手を置いて考えた。
ガイ「なぁ、だったら悪魔界で一緒に暮らせば良くね?」
波「え!?私が悪魔界に行くの?でも、一度行ったら帰って来れなくなっちゃうんじゃない?」
ガイ「やっぱり困る?」
波「そりゃ困るよ、こっちには家族や友達がいるし」
ガイ「自由に行き来できてもダメか?」
波「え、できるの?」
ガイ「ああ、現に俺はこっちに来れてるしな」
波「あ、そうか」
ガイ「つーか、このままだとこの部屋にいても発作起きそうなんだよ」
波「う・・・確かにないとは言い切れないか・・・」
ガイ「でも、波がどうしても嫌なら我慢する」
波「・・・わ、分かった、私、行くよ悪魔界に」
ガイ「え、本当か?」
波「うん、あ、でも、時々は人間界に帰らせてよね」
ガイ「分かった」
波「マンションは解約するしかないか・・・仕事も辞めるとして・・・家族に何て言おう」
ガイ「旅に出てくるぜって言えばいいんじゃねーの?」
波「そんなの許してくれる訳ないでしょ!行き先も言えないのに」
ガイ「そんなもん言わなくたっていいだろ」
波「良くないわよ!あーもうどうしよう!!」
ガイ「はー、人間ってのはめんどくせぇ生き物だな」
波「仕方ないでしょ、それが人間なのよ・・・ん?」
ガイ「どうかしたか?」
波はあるチラシが目に入った。机の上にランダムに置いてあるチラリをペラペラとめくる。
そのうちの一枚に海外特集が載っている。
ガイ「海外に移住してみませんか?って書いてあるな、海外って何だ?」
波「え?えーと、違う国ってことだよ」
ガイ「あ、そうか、悪魔界は一個の国しかねーが人間界は色々と分かれてんだったな」
波「海外・・・移住・・これだわ!!」
ガタンっ!
波は思い切り立ち上がった。
ガイ「うお!?いきなりどうしたんだよ!?」
波「ふっふっふ」
ガイ「その笑いはなんだ」
波「いい事思いついたのよ!」
数日後。
母「まぁ、海外に・・・?」
父「一人で住むのか?」
波「うん」
母「あなた・・・私は心配だわ」
父「うーん、しかし、波は今まで仕事ばかりしてきたからなぁ・・・夢ができたなら俺は応援してあげたいよ」
母「はぁ・・・そうね、波やってみなさい」
波「ほんと!?ありがとうお母さんお父さん!!」
母「ただし、治安の良い国にしなさいね?」
父「そうだな、女性だし尚更な」
波「うん」
ははは、治安のちの字もない悪魔界に行くなんてとても言えない。
両親は年齢的にも金銭的にも海外に行く余裕はない。
会いに行くわなんてことにはならないだろう。
なんせ行き先は悪魔界。悪魔の案内なしには行けないのだから。
四話 ガイの姉
悪魔界に着いてから少しして。
メリア「私はガイの姉のメリアよ、よろしくね」
なんとガイのお姉さんが部屋を与えてくれた。
部屋が余っているらしい。
番の方がいるらしいのだが放浪癖があるらしく普段はほとんどいないのだそう。
互いに体に影響はないそうで、かなり個人差があるんだなと知った。
お昼ごはん。
出されたのはパンとクリームスープとチーズだ。
クリームスープから湯気が立ち込めていて食欲をそそる。
波「ん!美味しい〜!」
悪魔界のイメージとは違ってシンプルで優しい味。
悪魔界自体もドロドロした血生臭いイメージだったけれど
豊かな自然に囲まれていて空気も澄んでるし排気ガスや工事の音もないから過ごしやすい。
近くには緩やかな川も流れていてヒーリング効果がありそうだ。
ガイのお姉さんが住んでいるのは治安のいい自然豊かな場所だ。
でも、確かに悪魔なら空を飛べるし車や飛行機を使う必要ないもんね。
メリア「そんなに喜んで食べてくれるなんて嬉しいよ
そのとうもろこし、ここで育ててるんだよ」
波「え、そうなんですか!?」
メリア「私、畑やってるんだ」
そういえばガイがそんなようなこと言ってたっけ。
後日、波は畑を手伝うことになった。
住まわせてもらうからには何か手伝わせてほしいとメリアにお願いしたのだ。
気にしないでいいと言われたが何もしないというのも落ち着かない。
ガイは一日に2〜3時間狩りに行っては帰って来る。
しかし、寝泊まりはここではしていないらしい。
本当にどこまでも自由な人たちだ。
五話 てんで悪魔にならない話
波がメリアを手伝おうとキッチンに向かう。
そこにちょうど狩りを終えたガイがさも当然かのようにキッチンにズカズカと入って来た。
波「あ、ガイ、お帰りなさい〜」
ガイ「おー、ただいま」
メリア「お帰り・・・ちょっとガイ、邪魔よ」
ガイ「なんだよ、いいだろこれくらい」
メリア「もう、いくら番を見つけたからってそんなひっつき回ってたら波だって迷惑よ?」
ガイ「そ、そういうもんなのか?」
メリア「そういうもんよ」
波「メリアさんいいんですよ、私、迷惑なんて思ってませんから」
メリア「もう、波はガイに甘過ぎよ!たまにはガツンと言ってやんなきゃ」
波「と言われましても・・・」
ガイ「(くぅ〜ん)」
波「なんかガイってワンちゃんみたいで・・・」
メリア「わんちゃん??」
波「犬って悪魔界にはいないんですか?」
メリア「あー!犬ね!いるわよ」
波「人間界ではペットとして飼う人が多いんです、それでわんちゃんって言う人がたまにいて」
メリア「なるほどねー、悪魔界じゃ飼うってことをする人はいないから知らなかったわ」
波「そうなんですか?」
メリア「うん、でもパートナーとして一緒に旅に出たり戦う人はいるよ」
波「じゃあ鎖は付けないんですか?」
メリア「やーね、悪魔界で鎖を付けるのなんて囚人だけよ、ここではみ〜んな自由だから」
波「いい場所ですね、自然も豊かで私好きです」
メリア「波に気に入ってもらえて良かったよ・・・
悪魔界が体に合わなかったら大変だものね」
波「確かに」
メリア「ねぇちょっと、あんたいつまでそこにいるのよ、全くそんなデカい図体して場所占拠しないでよね」
ガイ「うるせーな、狩りして帰って来たって言うのに少しは労われよ」
メリア「今日は?」
ガイ「鹿と熊だ」
メリア「豊作ね!これは腕が鳴るわ、捌くのはお願いね」
ガイ「ああ、任せておけ」
凄い会話だ・・・。
ガイが捌いている間。
二人はキッチンのテーブルに腰を掛け談笑をしていた。
メリア「ほんと、ガイって狩りの時以外は悪魔っぽくないのよね」
波「でも、なんだかんだ優しいですよね」
メリア「優しいけど譲れない部分については頑固よ」
波「あ、確かにそんな感じです」
メリア「ガイはね、狩りと戦闘以外はてんでダメなの」
波「そうなんですか?」
メリア「そうよ、料理はすぐ燃えて炭になるし、洗濯物なんてしわっしわよ」
波「あらら・・・」
確かに生活力は無さそう。
メリア「それにまさかガイがあんな依存体質だとは思わなかったわ」
波「私、番になったらそうなるものだと思ってました」
メリアは呆れたように首を横に振る。
メリア「あれは異常よ」
波「そうですかね?」(ぽやや〜ん)
メリア「うん、ガイの番はあなたしかいないわ」
そう言ってメリアは波の肩にぽんっと手を置いた。
波「?」
夕飯後。
メリア「ちょっとガイ、あなたまさか波と同じ部屋で寝る気じゃないでしょうね」
ガイ「そうだけど?」
メリア「私も同じ家にいるってこと忘れないでよね」
メリアはガイを指差す。
ガイ「でも俺、波とずっと一緒にいたい」
波「きゅん・・・」
メリア「なに赤ちゃんみたいなこと言ってんのよ」
ガイ「赤ちゃんは喋れないだろ」
メリア「そういう問題じゃないでしょ!
だいたい、あんたはいつも野宿してるじゃないの」
波「まぁまぁメリアさん、とりあえず今日はいいじゃないですか、外雨降ってますし、ガイが風邪引いたら大変です」
メリア「悪魔は雨に濡れたくらいじゃ風邪なんて引かないわ・・・と言いたいところだけど波がそう言うなら仕方ないわね」
部屋に向かう二人。
波「メリアさんお休みなさーい」
メリア「お休み波」
ほやや〜んと挨拶する波にニコッと微笑んでメリアは挨拶をする。
先に波が部屋に入り、ガイが続いて入る。
ガイが扉を閉めようとした時、メリアが話しかけてきた。
メリア「あ、ガイ、一ついい忘れてた」
ガイ「ん?」
メリア「ベッド、壊さないでね」
ガイ「フッ、ああ、分かった」
波「ガイ、何の話ー?」
波がひょこっと出てきて質問をする。
ガイ「波には秘密だ」
波「えー」
そんなこんなで悪魔界での自由で不思議な生活が始まったのであった。