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努力の方向性  作者: 鈴ノ本 正秋
第一章 中学サッカー部編
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【第一章】 第五十五話

「見たか、俺のスーパーゴール!!」


俺の目の前で渡辺は親指を立てながら、どや顔を披露してきた。

確かに今日の練習試合で渡辺は、相手のゴールキーパーが弾いたボールをスライディングしたまま右足を振り抜き、ゴールネットを大きく揺らしていた。


その渡辺のゴールが決勝点になり、今日の練習試合は勝利を収めた。

だが、再現性もない。ただのまぐれだ。

それでは県大会で優勝を収め、全国大会に出場するなんて夢のまた夢だ。


「本当にすごかった!!」


俺の隣では凌太が渡辺にそう答えて、それを受け止めた渡辺が「そうだろう、そうだろう」と笑っている。


それじゃあ駄目なんだよ、と叫びたかった。だが、俺にはできなかった。

これからこのメンバーで戦っていくのに、それをぶち壊すようなことをしてしまえば、全国大会出場の夢は更に遠ざかってしまう。


「俺もそう思う」


という、無難な答えに落ちついてしまった。

それを素直に受け取った渡辺は更に喜びを爆発させた。


一年生がボールやドリンクの片づけをしている様子を目で追った。二年生になった俺たちは自分たちの片づけをすればいいだけなので、俺たちは少し時間が余ってしまう。


その余った時間を利用して、俺は練習試合の録画を撮りに来てくれた今井さんに感謝の言葉を伝えに行くことにした。特に今日、俺はそんなに活躍できなかったため、どうすれば良かったのかを分析するために何度も録画を見返したい。


「ええと」


俺は校門の前に置かれた掲示板に画鋲で止められた案内図を眺めた。初めて来る他校の中はどうなっているのかわからないのだ。


しかし、それをする必要がなくなった。何故なら、着ていたジャージのポケットに入ったスマートフォンが小刻み揺れ、通知画面に【すみません。急遽塾の予定が入ってしまったので、少し前に帰りました。今日の試合お疲れさまでした】と表示されていた。


俺はスマートフォンをジャージのポケットに投げ込み、ふと空を見ると、分厚い雲から大きな雨粒が降り始めていることに気が付いた。


今井さんは元々、塾の予定があったのだろう。だけど、無理をして俺の試合を録画しにきてくれたのだ。残り六カ月を切った高校受験の勉強をせずに。


これ以上は迷惑をかけてはいられない。


俺はもう一度、スマートフォンをポケットから取り出し、今井さんとのトーク画面を開いた。そして、慣れないフリック操作で文字を打ち込んだ。その間、空から降ってくる大きな雨粒がスマートフォンの画面へと落ち、邪魔をしてきた。


しかし、俺は送信ボタンを押した。


【今日はありがとうございます。ですが、これからは後輩に録画を撮るのをお願いしようと思います。今井さんは高校受験に集中してください。今までありがとうございました】


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