【第一章】 第四十八話
新一年生は十八人が入部することになった。俺たちの代と比べて五人少ないが、渡辺が前に言っていた通り、かなりの実力者が揃っているようだった。だが、その中でも本郷が頭一つ抜けているようで、武井監督の指示で本郷だけが一軍の練習に参加するようになった。
「間中先輩、一緒に基礎練習しましょう!」
本郷は足でボールを転がしながら近寄っていった。
その目はかなりキラキラしている。まるで憧れのサッカー選手に会っているようであった。
いや、本郷にとって、間中が憧れサッカー選手であることには違いないか。
「まぁいいけど」
間中は後頭部を手で掻きながら答えた。
本郷が一軍に上がってから、ずっとこんな調子であるため、いい加減うんざりしているのだろう。しかし、俺にとっては好都合だ。
そのまま足を引っ張り合っていてくれ。その間、俺は着々と実力を付けていくからな。
俺は横目で間中と本郷のやり取りを見ながら、凌太と基礎練習をこなした。
数日が経ち、五月下旬になっていた。全国中学サッカー大会に挑むメンバーが発表された。
俺は昨年の新人戦の背番号と同じ六番が書かれたユニフォームを受け取った。また一桁の背番号を手に入れられたことが嬉しく、荷物置きから少し離れたところで手に持ったユニフォームに顔を埋めた。
「若林」
俺は声をした方へと視線をあげると、そこには神田先輩が立っていた。
嬉しさを爆発させていたところを見られたことが少し恥ずかしくて、もう特に意味もないのに俺はユニフォームを咄嗟に後ろに隠した。
何慌てているんだ、と神田先輩はオールバックにしている自分の髪を撫でた。
「実を言うとな。昨年の九月の選考の時、朽木がお前を連れてきて、何を考えているんだって思ったんだよ」
「そうなんですね」
初めて知ったようなふりをして、俺は答えた。
正直なところ、そんなことはわかっていた。あの日のパソコンルームで明らかに嫌な顔をしていたから。
「そして、チームDとのミニゲームの時も無茶なパスを出して、何を考えているんだ、こいつはって思ったんだ」
神田先輩の視線は俺の方を向いていない。
「そして、お前は俺に『本気でやってください』なんて言いやがったんだ。その瞬間、頭に血が昇って殴ってしまいそうだった」
「その気持ちは当然ですよ。いくらサッカーの中では先輩後輩関係ないとはいえ、言い方は間違っていたと思います」
そんなフォローは今更いらねーよ、と神田先輩は吹き出して笑った。視線はまだ俺の方を向いていない。
「だけど、お前の言っていることは正しかった。丸山先輩たちが引退して、もうあのメンバーでサッカーできないと思うとやる気が起きなくてな。俺は怠けていたんだ」
神田先輩の言葉に頷いて良いのかわからず、俺は「そうなんですね」と呟いた。
「だから俺たちが引退しても腐るなよ。若林」
「わかりました」
俺は神田先輩にそう答えた。しかし、俺は恐る恐る口角をあげると、神田先輩の視線に移り込むように回り込んだ。
「けど、まだ全国中学サッカー大会も高円宮杯も残っています。そんな弱気なことは言っていられませんよ!」
俺が生意気な表情を浮かべながらそう言うと、神田先輩は小さくため息を吐いた。
「そうだな。まずは全国中学サッカー大会で全国大会出るぞ」
「はい!」
俺は腹に力を込めて答えた。
そして、一か月後。俺たちサッカー部は全国中学サッカー大会で県大会に出場するも、一回戦敗退となった。
もう残りは高円宮杯しかない。勝つしかない。




