【第一章】 第四十一話
残暑を感じる夏の朝の空の下。俺は朝からサッカーボールを蹴っていた。
これは朝のルーティンだ。小学生の頃から続けている。しかし、最近ではルーティンの内容を少しだけ変えた。まずリフティングを三回して、真上にサッカーボールを蹴り上げる。そして、落ちてきたボールを足でトラップして、ボールを落とさないように再びリフティングを開始する。
これの繰り返しだ。
それを十数分続けた後、ボールを脇に抱えて自宅まで走って帰った。今日からサッカー部の一軍としての自覚を持っていかなければいけない。朝練習に遅刻なんてしてはいけない。
家に着くと、慌ててスポーツウェアを脱ぎ去ると、思った以上に汗をかいていることに気が付いた。シトラスの臭いがするボディシートで首元や脇の下、背中などの汗を拭きとると、ひんやりとして気持ちが良い。
一通り拭き終えた後、学校指定のジャージへと着替え、家を出た。今の時刻は六時五十分。朝練習開始まではあと二十分だ。
「おはようございます!」
通学途中にある畑で作業をしている小泉さんを見かけたため、一度足を止めてから挨拶をした。それに気が付いた小泉さんはゆったりと腰をあげると、手に持っていた小さなシャベルを振っていた。
「おう、おはよう。透真くん。また今度、作った野菜が意外と余ったから、受け取ってくれ」
「いいんですか。ありがとうございます!」
俺は頭を下げた。そして、頭をあげると、小泉さんが目を細くして俺の顔をじっと見てきた。
「透真くん。何かいいことあっただろう?」
不意に言われ、「え」と俺は息を吐くように言葉を出してしまった。
「憑き物が取れたような表情をしているから」
小泉さんは頬をあげ、嬉しそうに俺を見ていた。
確かにそうかもしれない。俺は昨日の選考までの間、どうやったら上手くなるのかだけを考え続けた。きっと俺はそれだけ切羽詰まって、録画を見て練習を重ねていたのだろう。
「はい。良いことありました」
「そうか。良かったな」
「はい!!」
俺は笑顔でそう答えると、小泉さんに背を向けて学校へと向かっていた。




