表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
努力の方向性  作者: 鈴ノ本 正秋
第一章 中学サッカー部編
29/115

【第一章】 第二十八話

「朽木先輩に誘われたんだ、すごいね!!」


凌太に朽木先輩に誘われたことを報告すると、そう言われた。


「理由はよくわかんないけどな。けど、朽木先輩に学校から出たら、すぐに来るように言われた。だから今日の自主練習には行けそうにない」と、俺はここまで言うと、あたりを見渡して渡辺や間中たちがいないことを確認してから、こう続けた。「お前らも俺がいないほうが自主練しやすいだろうからな」


俺と一緒に帰るつもりで、渡辺たちが先にいつもの自主練習の公園に向かっていても待っていたらしく、目を丸くして驚いている様子だった。

しかし、それは僅か数秒で元に戻った。


「今回は敵同士だからね」


凌太は空気を吐き出すように笑いながら言った。


「明日、お互いに最善を尽くそうな」


俺は凌太にそう言うと、校門を出て、いつもとは反対方向へと走った。

朽木先輩に呼び出された公園は中学校から少し離れたところにある。少し走らないと間に合わないため、じめじめとした空気を切り裂きながら足を動かした。


十数分ほど走り終えると、ようやく目的地の公園が見えてきた。公園は最近できたばかりであり、この地域で二番目に大きな公園だ。

この公園には初めて来たが、かなりサッカーの練習に持ってこいの場所であった。天然の芝と土の場所が半々に分かれており、たった一つだけサッカーゴールが置かれている。


公園の奥へと進んでいくと、外灯が照らしている場所に俺たちサッカー部のジャージがちらりと見えた。さらに近寄っていくと、一つの人影がのそりと立ち上がった。


「若林来たな」


「はい。あの……」


少し聞きにくいことであったため、尋ねようか迷ってしまった。だが、覚悟を決めた。


「他の先輩たちは、どうしたんですか?」


そう。俺が公園の奥まで行かなければ、朽木先輩の存在に気が付かなかったのは先輩一人しかいなかったからだ。他に先輩たちが集まって練習をしていたり、作戦会議などをしていたりした場合、簡単に気が付くことができた。


「他の奴らは来ない。その必要が無いからな」


「必要がない?練習はしないのですか?」


「ああ」とぼそりと言うと、朽木先輩は首を傾げ、「お前、今井から練習試合の録画をもらっているらしいな。何に使っているんだ?」と問いかけてきた。


「戦術理解をするためです」


俺は答えつつ、今井さんにも同じ質問をされたのを思い出した。しかし、朽木先輩はその答えでは納得いかなかったようで、眉を顰めた。


「それだけか?」


じっと俺の目を見てきた。まるで罪を犯し、尋問をされているような気分だった。

少しだけ不快だったため、朽木先輩の目を睨み返した。


「どういう意味ですか?」


質問し返すと、朽木先輩は舌打ちをして視線を逸らした。

だが、やはり朽木先輩は俺が練習試合の録画をもらっている真の目的を理解しているようだ。落ちていた木の枝を持ち、地面の土にサッカーコートを描いた。


そして、サッカーコートの中にいくつか丸を描いて、一つの丸を木の枝で指した。


「これは試合中の俺だ。俺はボランチからもバックパスを受け取り、相手のフォワードは考えなしに正面から寄せてきている。俺は正面以外の全てにパスを出すことができる。さて、俺はどこにパスを出す?」


たったこれだけの質問で、朽木先輩が直接的ではなく間接的に聞き出そうとしていることがわかった。だが、俺も練習試合の録画を見ている目的が完璧に披露できるようになるまで、公表はしたくなかったため、この間接的な問いは非常に助かった。


俺もその場にしゃがみ込んで、朽木先輩が指していた場所を指さした。


「右サイドハーフの神田先輩を目掛けてボールを蹴ります。相手のフォワードがいくら考えなしと言っても、時間をかけている余裕はない。なら、トラップとドリブルが得意な神田先輩にボールを託すと思います。朽木先輩は合理的だけど攻撃に積極的なので、この場面では一つのパスで前線に繋げるパスを選択します」


「ほう。なら次の質問だ」


そこからしばらくの間、地面に書いてある丸を消しては描き、俺に質問をするという工程を繰り返していた。そして、質問の回数が二桁を超えるまでになってきた時、ようやく朽木先輩は丸を描く手を止めた。


「やはりお前を二年生の組に入れて良かった」


と言うと、すくりと立ち上がった。そして、公園の外灯近くに置いてあった荷物を取った。


「明日のミニゲーム楽しみにしているぞ」


朽木先輩はそれだけ言うと、その場から立ち去って行った。

朽木先輩の背中が見えなくなった頃、俺は尻もちを着き、大きく息を吐いた、そこまで長くない時間であったが、頭をフル回転させていた疲れがどっと出たのだ。


しかし、それだけではない。俺の神経を摩耗させていた一番の原因は他にあった。


「朽木先輩を夜に見ると、少し怖いな」


と、小さくぼやきつつも、嬉しさが溢れ出した。そして、明日のミニゲームの中で使える範囲で、練習試合の録画を何度も見返した成果を見せようと決めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ