表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
努力の方向性  作者: 鈴ノ本 正秋
第一章 中学サッカー部編
26/115

【第一章】 第二十五話

俺たち一年生がサッカー部に入ってから三回目の一軍と二軍の紅白戦が始まった。

二軍からのキックオフで始まったが、ゴール前に届く前にボールを奪い去られてしまった。


そこからしばらくは防戦一方だった。ボール支配率はおそらく八十五パーセントは超えていることだろう。

だが、何度も抜かれても、シュートを打たれても護り続けた。そして、その時は来た。一軍の豊本先輩が放った少し後ろからのミドルシュートを二軍のゴールキーパーがしっかりとボールをキャッチしたのだ。


二軍のゴールキーパーと事前に合図を決めていた。俺が前に走りながら、右サイドを駆け抜けていた波多野を右手で指さした。

それに気が付いた二軍のゴールキーパーは、予想を超える強肩で手に持っていたボールを投げ、ぐんぐんと伸びていき、サッカーコートのハーフウェイラインを越えていた波多野にボールが渡った。


「流石!!」


波多野はボールを前に弾いてトラップをした。

一年生同士での紅白戦の際に波多野は、間中の放物線を描いたパスを難なくトラップしてみせていた。確かにトラップをしやすいパスであったが、当たり前のようにトラップしたと知っている。そのため、俺はゴールキーパーからのパスの受け手を波多野にしてくれと頼んだのだ。


想定外のカウンター攻撃に一軍の守備の人数は相手のキーパーを合わせて二人しかいない。だが、このカウンター攻撃を事前に知っていた俺と凌太は、波多野のパスをゴール前で受けるために駆け抜けて行く。

二軍の攻撃人数は三人で、一軍の守備人数は二人。数的有利を取れている。


だが、俺と凌太の一歩後ろを追いかけてくる気配を感じた。丸山先輩だ。俺たちがカウンター攻撃を予測していたからなのかわからないが、ゴール前にたどり着く頃には、俺たちの横まで追いついてきていた。


それでもこちらの数的有利なのは変わらない。それを波多野も理解したのか、右サイドからゴール前の真ん中にドリブルで切り込んできた。他の守備の選手がいるとき、ゴールキーパーは無暗に前に出て来ない。だから、三対二という構図は保たれたままだ。


ここからはアドリブだ。波多野がゴール前で俺たちにパスを出すのか、それとも自分でシュートを打つのか。だからこそ、一軍の選手たちの視線がゴールの右側にいる波多野に集まり、左側は疎かにしてしまう。全員の視線が波多野に向いたことを確認した俺は、方向転換をしてゴールの左側に駆け出した。一軍の先輩たちの視線に変化はない。誰もが波多野に視線を奪われてしまっている。


このゴール前で唯一俺の存在に気が付くことができていたのは、皆の視線を奪っていた波多野だ。俺が完全にフリーになったことに気が付いた波多野は、ゴールの左側に大きく蹴り出した。それに釣られるように二人の先輩の視線が移った。


しかし、ここで違和感に気が付いた。一軍の先輩たちはゴールキーパーも合わせて、三人いたはずだ。


「残念。俺はその仕組みを理解している」


左側から大きく周り込まれ、俺の真横に丸山先輩がいた。前に入り込まれ、波多野からのパスを先に触られてしまった。そして、そこから奪い返そうと足腰に全力で力を込めるが、全く歯が立たずに、簡単にボールをサッカーコートの外に蹴り出されてしまった。


その時、俺はまるで達磨のように情けなく転がされ、倒れ込んでしまった。サッカー部の練習の他に、競り負けない体にするために筋トレや食事量を増やしている。しかし、約十五センチの身長差は、それで補うことができないほどと証明された気がした。


倒れた後に曇り空を一瞬だけ眺めていたら、そこに丸山先輩が手を伸ばしてきた。


「悪いな、大丈夫か?」


「はい。大丈夫です」


俺はその手を取り、立ち上がった。これ以上の屈辱はない。

丸山先輩はしっかりとボールに触れながら、俺に体格で勝利したため、反則ではない。そして、千載一遇のゴール機会を簡単に防がれてしまった。

悔しすぎて、丸山先輩の顔を見たら殴りかかってしまうため、視線を下に向けながら感謝の言葉を述べ、守備に戻るために背を向けた。


「あのゴール前での動き、俺の真似か?」


俺は思わず足を止めた。まさか気が付かれていたとは思わなかったからだ。

今井さんからもらった練習試合の録画で、最初の丸山先輩の得点シーンを見返して、仕組みを理解した『相手の視線から消える動き』をようやく身に着けることができた。


それを今回は全く同じ場面ではないというのに、丸山先輩はその『相手の視線から消える動き』に気が付き、防いだのだろう。


「今井から聞いていたが、まさかあの動きを真似してくるとは」と丸山先輩は頷き、こう続けた。「良い着眼点だ。今後も精進しろよ」


丸山先輩はそれだけ言い残し、俺の隣を駆け抜けて行った。

完璧に防がれてしまったが、心は一気に晴れやかになって気がした。今回も三対〇という大差で二軍は負けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ