【第一章】 第二十二話
月曜日の昼休み。給食を終えた後、俺はパソコンルームに急いで向かった。凌太たちに少し声をかけられたが、俺はトイレに行くと嘘を吐いた。
一昨日の練習試合の録画を今井さんのビデオカメラからコピーするためだ。俺はUSBメモリーとパソコンとビデオカメラとパソコンを繋ぐためのコードを適当に持ってきた。
そして、パソコンルームまで辿り着くと、パソコンルームの扉の前には既に今井さんがいた。
「こんにちは、今井さん。わざわざありがとうございます」
「いえ、私は別にサッカー部で頑張っている皆さんの応援がしたいだけなので……」
「それでもありがとうございます」
俺は丁寧に頭を下げた後、パソコンルームの中に入った。
ずらりと四列、パソコンが並んでおり、どのパソコンも黒い画面のままだ。全てが全く同じパソコンであるため、性能に違いはない。一番近くにあったパソコンを選び、起動させた。
そして、今井さんのビデオカメラとパソコンを繋ぎ、USBメモリーを指し、パソコンに促されるようにクリックしていくと、俺のUSBメモリーにコピーされていく画面に変わった。
転送完了予定時間が八分と表示された。
「ところで」
パソコンを起動中に、俺の隣の席に座っていた今井さんがぽつりと呟いた。
「若林さんはこの録画をどのように利用されるのですか?サッカー部を応援する者の一人として、若林さんに尋ねたいです!!」
パソコンの画面から今井さんへ視線を移した。彼女は俺がこの問いかけにどのように答えるのか、とても興味があるようだった。
けど、そこに何の深みはなく、ただ純粋に好奇心から問いかけているようだった。
「どのように利用……ですか」
だからこそ、この好奇心を失わせたくなく、俺は言葉を詰まらせてしまった。もしこの好奇心を損なう回答をしてしまった場合、今後録画の提供を俺にしてくれないのではないかと思ってしまったからだ。
「はい!!」と元気よく返事をする声が聞こえた。
適当な嘘を並べて、きれいごとを言うこともできた。だが、俺は正直に答えるべきだと考えた。
「俺はこのサッカー部の一軍に昇格して結果を残すために、戦術理解力を向上させたいんです」
「戦術理解力ですか。確かに俯瞰的に見られるこの録画を見ることは合理的ですね!」
今井さんは笑顔で言った。そして、同時にパソコンの画面が切り替わり、転送完了と表示されていた。
それに気が付いた今井さんはビデオカメラから繋がっていたコードを引き抜いた。
「昼休みの時間もあとわずかなので、失礼します!!今後も若林さんを応援したいので、録画は提供させていただきますね。」
今井さんは頭を少し下げた後、パソコンルームを駆け足でパソコンルームを出て行った。感謝の言葉を口にする間もなく、いなくなってしまった背中を眺めることしかできなかった。