【第一章】 第二十話
「今度から絶対酔い止め持ってくる」
練習試合会場の学校の水道で、凌太は先輩たちのドリンクの準備をしながら、俺の隣で決意していた。
そうしてくれ、と俺は心から願ってしまった。また隣で吐かれてしまったら、今度こそ俺も吐いてしまいそうになる。
だが、凌太の顔はすっきりとした様子であり、一安心ではあるのだが。
「けど、吐いてしまうくらい酔うなんて、さては夜更かししたな?」
俺の反対側の隣でタオルを濡らしていた波多野が、顔を突き出して問いかけた。
「うん、昨日海外サッカーがあったからね。それを見ていたらいつの間にか朝になっていたよ」
「まじかよ!!あんな遅い時間まで起きていたのかよ!!」
「それくらい気になっていたからね」
「すげーなー。あ、結果のネタバレはするなよ。俺は録画して、今日帰ってから見るんだから」
「わかったよ。でも本当にいい試合だったのは確かだから、楽しみしていた方がいいよ」
「おー!!もう今日の練習試合よりも海外サッカーの試合見たい。なぁ、若林も気になるよな!!」
突然、俺に話を振られて「え」と声をあげてしまった。この話をしている間、俺は息を顰めていたのだが、二人の間にいる時点で会話に入れられるのは確定だったのに、立ち去らなかったことを悔やんだ。
何故なら俺は海外サッカーの試合が夜中にあったことを知らなかったからだ。
「ああ。俺も帰ってから見るのが楽しみだ」
だが、それを正直に言うのは何故か嫌だったから、適当に返事をした。
あとで結果だけ調べよう。そうすれば話をある程度、合わせることができるだろう。
そして、俺たちは両手にドリンクを持ちながら、一軍が練習試合のための準備運動をしている場所まで歩いて行った。その道中、一人の女子生徒が練習試合会場の学校の二階からビデオカメラの準備をしている様子が目に入った。
「おい、あれって俺たちの学校の生徒だよな?」
俺の視線の先を、凌太と波多野が追った。
「ああ、確かサッカー部の仮マネージャー、二年生の今井梨乃さんだったよね」
「仮?」
俺は凌太に問いかけた。
「うん。僕たちの中学校は部活マネージャーをしてはいけない校則があるんだ。だから部活の一員ではなく、一人の生徒としてサッカー部を応援してくれているらしいよ。だから仮マネージャーなんだ」
「そうなのか。じゃあ、あのビデオカメラは?」
「建前として個人的に撮っているだけらしいけど、本当は撮ったビデオをサッカー部の先輩に渡しているらしいよ。ほら、コート全体から試合を観たら、戦術理解するときとかチーム全体の欠点とかが分かりやすいでしょ?」
「戦術理解…………か」
何かできるかもしれない。俺を覆う“何か”を払いのけられるかもしれない。俺は今井梨乃さんがビデオカメラの三脚を調節している様子を見ながらそう思った。




