【第一章】 第十九話
そして、次の日。俺たちサッカー部は他校まで足を運び、練習試合を執り行う予定だ。今回の相手は県外のベスト16になった学校だ。
何故、この時期に県外の学校とわざわざ練習試合を行うかというと、今はもうすぐ全国中学サッカー大会が始まるため、県内の学校と試合をしてしまうと戦術などの手のうちを明かしてしまうことになる。だから他県の学校と練習試合をわざわざ行うのだ。
一時間半ほど大きなバスに揺られた俺たちは目的地にたどり着いた。バスで俺の隣に座っていた凌太が顔を真っ青にしながら、頭を抱えていた。
「よ、酔ったー」
「大丈夫かよ、凌太。水飲め、水」
隣で吐かれなくて良かったと内心安堵しつつも、凌太のリュックサックの中から一リットルほど入る水筒を取り出し、凌太に渡した。凌太の片手にはもしもの時のためにエチケット袋を持たせている。
そうしている間に、バスの前の方に座っていた先輩たちは続々とバスを降りていった。どこかピリリとした雰囲気を漂わせながら。俺がその先輩たちの背中を目で追っていると、後ろから声をかけられた。
「俺たち二軍は一軍の後に相手の中学の二軍と練習試合ができるらしいけど、その前にドリンクの準備とかしないとだとさ」
「波多野か。驚かせるなよ」
「そんな驚くことかよ」
「いや、驚くだろ。バスのシートの間からいきなり顔が出てきたんだぞ。驚かない奴がいるかよ。それに俺の隣には体調ふりょ…………」
ここまで言った後に、隣から異音が聞こえた。固形物と液体がエチケット袋に滴る音と小さな嗚咽が聞こえた。そして、異臭が漂ってくる。
決して視線は向けないようにしながら、片手で凌太の肩を擦った。吐くまでよく耐えた。あとはゆっくり休んでくれ。
だが、決して俺にそのエチケット袋を見せないでくれ。きっと俺まで異臭を漂わせてしまうから。