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デルフィーヌ、真実の愛の実を手に入れる


 ダラスが魔物狩りに出かけたその日、オーロラは王妃にお茶に誘われた。王妃の部屋に行ってみれば、そこには王妃以外にもう一人、女性がいた。王妃はその女性、デルフィーヌをオーロラに紹介する。


「オーロラ。私の兄の娘、デルフィーヌよ」

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はトルテ侯爵の娘、デルフィーヌ・トルテと申します」


 王妃の言葉の後、デルフィーヌが立ち上がり淑女の礼を取る。

 黒髪に紫色の瞳に美しい令嬢で、オーロラは一瞬気後れしたが、挨拶を返した。


「私はフォレスタン王国王女、オーロラです。お会いできて嬉しいです」


 デルフィーヌは、オーロラに向かって体調を伺う言葉をかけたり、未来のケリスタン王子妃としての勉強が辛くないか、心配そうに尋ねることが多かった。

 それに対して、オーロラはダラスに支えてもらって、どうにか頑張っているという返事を返していたのだが、あまりにも不安にさせる質問が多かった。


「オーロラ殿下は、ダラス殿下の変わりように驚かれたと聞いておりますが、本当ですか?」


(……どうして知っているの?ああ、噂)


 侍女など使用人たちと関係を修復し、親しく話す様になってからオーロラは噂を聞いた。

 それは、まさしくデルフィーヌが尋ねた内容のことで、まだ噂は健全であることに心を痛める。


(嘘ではないもの。しかたないわ)


「……ええ。この四年、ダラス殿下は私のために体を鍛えられ、すっかり逞しい方になってらして、驚きました。けれども性格も何もお変わりなく、可愛らしい方です」

「か、可愛らしい?」

「ええ」


(かっこいいし、凛々しいけど。前のように可愛らしさもある。あのケツアゴ、割れ顎も今となっては魅力的かもしれない)


 何度も会い、話しているうちにオーロラは彼の割れ顎に対して、苦手意識はなくなっていた。それよりもチャームポイントとして捉える様になっていた。


「まあ、オーロラったら。前からあなた、ダラスのこと可愛い可愛いって言っていたけど、まだ言うなんておかしいわ」


 王妃がコロコロと鈴を転がすような声で笑い、オーロラは微笑を返す。

 デルフィーヌは空いた口を塞ぐのが精一杯の様子だった。


 ☆


 お茶会から屋敷に戻って、デルフィーヌはクッションに八つ当たりする。


「どういうこと?え?どこか、可愛いの?逞しいとか、かっこいいとか、そういう要素でしょ?ね?」


 そばに控え、床に落ちたクッションを拾う侍女は黙ったままだ。


「ああ、もう、打つ手はないの?折角私の理想の男をやっと見つけたのに!」

「……私が力を貸そうじゃないか」

「だ、誰?!」


 突然しゃがれた声が聞こえ、デルフィーヌは怯えて声を上げる。

 発言したのは侍女だったが、見たことがない顔だった。


「私は魔女。オーロラに眠りの呪いをかけた魔女さ。デルフィーヌ。この実を使って、真実の愛を証明するのさ。オーロラはダラスにより呪いを解かれた。その時、「ケツアゴ」と叫んだのさ。それでダラスが傷ついて帰国したってわけ。オーロラが本当にダラスを愛していると思うかい?ケツアゴ呼ばわりした男を」

「なんですって、ケツアゴ?!あの崇高な割れ顎をケツアゴなんて。なんて女なの!」


 デルフィーヌは怯えを忘れ、怒りを露わにした。


「そんなの愛じゃないわ。偽物よ!」

「そうだろうよ。どうだ。この真実の愛の実をダラスに与え、眠りの魔法をかけるのだ。そうしてお前が真実のキスを捧げ、ダラスを眠りから目覚めさせれば、お前の真実の愛が証明されるだろう」

「……私の真実の愛。そうよ。私はダラスを愛している。オーロラなんかには負けないわ。ちょうだい。その真実の愛の実とやらを」

「へへへ。渡してやろう。今回は代償なしだ。友への詫びだからな」


 友への詫び。

 魔女のそんな言葉など無視して、デルフィーヌは真実の愛の実を受けとる。

 実を受け渡した後、魔女は煙の様に姿を消し、彼女の手の中に林檎によく似た果実が残るのみだった。


 ☆

 

「ダラス殿下。ご無事で、」


 ダラスが戻ったと聞き、部屋に伺おうかとしていると当の本人がオーロラの部屋にやってきた。

 従者のスタンが隣で焦りながら、その髪を布で乾かしている。


「オーロラ。また竜のやつが暴れたけど、しっかり倒してきたから安心していいから」

 

 スタンに髪を拭かれながら、ダラスが答える。


「ダラス殿下。せめて髪をしっかり拭いてから、オーロラ殿下に会いましょうよ」

「待ちきれなかったんだ。本当は湯浴みなんてしなくて、直接会いに来たかったんだ」


 オーロラの前で二人はそんな会話を続ける。

 王宮に来たばかりの頃は、仇を見る様な視線を送っていたスタンだが、ダラスがオーロラべったりになってから、態度を改めた。こういうやり取りを目の前でよく見ることになり、オーロラはスタンに許された気になっていた。

 スタンはダラスと共にフォレスタンへオーロラの魔法を解くため、やってきたと聞いていた。オーロラのあの発言は聞いてないはずだ。けれどもダラスの変化に何かあったと考えたのだろう。

 ダラスの従者であるスタンには、いつか実際にあった事を話したほうがいいと思いつつ、まだ言えないでいた。

 

「オーロラ。お土産は何もないんだ。ごめんね」

「いいえ。ダラス殿下が無事に戻ってこられたのが一番のお土産ですよ」


 ケリスタン最強の騎士とは言え、竜を相手にしたのだ。一度は倒していると聞いていたが、内心オーロラは心配だった。けしかける形にもなってしまったので、そのことも後悔していた。あの時は、相手が竜とは知らず、彼が旅立ってから、魔物討伐対象が竜だと知った。

 

(そういえば、デルフィーヌ様も心配ではないのですか?竜相手なのに。と。少し私を詰ってる感じだったわ。あの方は、きっとダラス殿下が好きなんだわ。変な噂、というか事実だけど。体付きが変わってしまったダラス殿下を蔑ろにしたとか思われてそうだし)


「オーロラ?」

「なんでもございません。ダラス殿下。お腹減っていませんか?一緒にお茶をしましょう」

「うん。ちょうど小腹が空いていたんだ」


 指示をしていないのだが、既にスタンによってお茶の準備が進められていた。

 場所はオーロラの部屋だ。

 

「それで、竜が急に炎を吹いて」


 ダラスは竜の討伐について、オーロラに身振り手振りを交えて語る。

 大柄な彼が子供っぽい動作をするのは一見おかしく見えるが、オーロラにはそれは可愛らしいとしか目に映らない。

 思わず微笑ましいと目を細めて話を聞いていると、ダラスが急に話を止めた。


「どうしたのですか?」

「いや、なんか子供っぽかったかなと思って。僕ももう十七歳なんだし。来年は成人だ」

「そうですね。でも私はそういう殿下を可愛らしく思います」

「か、可愛い?僕が?今の僕だよ?」

「ええ。殿下は今も昔も可愛いです」

「うああ。なにか物凄い恥ずかしい」


 屈強の騎士にしか見えないダラスが顔を赤くして照れるのは、少し不恰好だった。

 けれどもオーロラの目には違って映る。


(森で戦っていたり、訓練をするダラス殿下はとてもかっこいいけど、こうやって恥ずかしがったりする姿はとても可愛い。なんて言うか、成長して無敵になってしまわれたわ。何をとってもかっこいいし、可愛い)


 オーロラはすっかりダラスの虜になっており、それをダラスはまったく気づいていなかった。

 そんな微笑ましいお茶会は、突然やってきた使いによって急遽中止される。


「王と王妃、そして王太子が王室でお待ちです」


 使いは騎士であり、断る選択もないまま、オーロラはダラスと共に王室へ向かった。


 


 

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