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デルフィーヌ、二人の仲を裂きたい

 二人でそれぞれの馬を操り、仲良く王宮へ戻った時から、オーロラの周りの対応が変わり始めた。


「申し訳ありません。オーロラ殿下。私は勘違いしておりました。いかなる罰もお受けいたします」


 侍女長が首を垂れて謝罪に来たが、彼女は謝罪は必要ないと断った。

 現時点でオーロラはまだ婚約者に過ぎない。

 もし彼女がすでにこのケリスタンの王子妃になっていれば、処罰も必要だが、今はまだ外の王族過ぎない。自身が蒔いた種でもあり、オーロラは侍女を許し、使用人たちの変化を黙って受け入れた。


「オーロラ」


 変化はそれだけではない。

 部屋を訪れたダラスは、花束を抱えていた。


「この白い薔薇、オーロラが好きだっただろう?」

「ありがとうございます」


 オーロラは白い薔薇を受け取ると、バーバラに活けるように頼む。

 四年前もこうしてダラスは白薔薇を持ってきてくれた。

 美少年と白薔薇。

 当時は耽美的な美しさがあったが、成長したダラスと白薔薇は耽美とはほぼ遠い。

 逞しいダラスが白薔薇の花束を持つ姿は、凛々しく、尊い美しさがあった。


「中庭でお茶でもしないかと思って」

「嬉しい。ありがとうございます」


 天気もよく、外の空気はさぞかし美味しいだろうとオーロラはダラスの誘いに乗った。


 彼と話をすると、この四年で変わっていないところをたくさん発見する。彼に見つめられると、胸が締め付けられるような痛みが走る。そしてなんだか恥ずかしくなる。

 以前であれば、オーロラは彼の美しさをその目で堪能したいと、ずっと見ていられたのだが、今は恥ずかしさが先立った。

 それでも一緒に過ごしたくて、オーロラは彼に誘われればいつも出かけた。


「ダラス殿下。探しましたよ」


 中庭でお茶を飲んでいると、現れたのは騎士団長だった。


「何か用か?」


 すこしムッとしてダラスは返事をする。


「少し手を貸していただけませんか?」

「嫌だ。もう十分だろう?オーロラが滞在する間は私は休暇だ」


 精悍な顔で似合わないのに、ダラスは唇を尖らして抗議する。


「それは、そうですが」


 騎士団長は本当に困っているようで、その眉は垂れ下がっている。


「ダラス殿下。私に構わずどうか、お手伝いをしてくださいませ。ダラス殿下はケリスタン最強の騎士だと伺っております。その力が必要なのでしょう」

「最強、そうか。僕は最強……」


 ダラスの顔に少しだらしない笑みが浮かんだ。


「わかった。ジェフリー。手伝うぞ」

「ありがとうございます。オーロラ殿下」

「いえ?どうしたしまして」


 オーロラはなぜ騎士団長、ジェフリーに礼を言われるかわからず首を傾げる。


「オーロラ。強い魔物を倒してくるから。待っていて」

「はい。お気をつけて」


 目を輝かせ、満面の笑みを浮かべる姿は、四年前と同じだ。

 ただ、精悍さがそこに加わり、大人の色気を感じてしまう。

 すでに割れ顎のことは、気にならなくなっていた。


 ☆


 ケリスタン王宮は再び、オーロラ歓迎の雰囲気に戻りつつあった。

 妖精の様なダラスは王宮内で可愛がられていた。その彼の婚約者オーロラに王宮の人々が好意を持つことは当然なこと。しかもダラスが好意を隠さず、子犬の様にオーロラに懐いているのだ。なので、オーロラに対して悪い噂など何一つなかった。

 この四年も、オーロラは呪いにかかった不幸な王女であり、それを助けようと奮闘するダラスを応援するムードは高まっていた。ダラスの真実のキスにより呪いが解け、その王女が訪問する。そうなれば王宮はオーロラ歓迎一色に染まるはずだった。

 けれども、呪いを解いて戻ってきたダラスは人が変わった様に闇を背負っており、王宮に留まることなく、魔物討伐に明け暮れる。ダラス自身は話さないし、王宮自体で彼の姿を目をすることも少ない。そうして王宮内ではある噂が広まっていた。

 呪いから覚めたオーロラは成長したダラスを拒絶し、それでダラスが深く傷つき、狂った様に魔物討伐に没頭するようになってしまった。

 ダラスはほぼ王宮に留まらない。たまに見掛けられる彼は亡霊の様。気が抜けており、表情は暗い。

 噂は信憑性を持ち、広まっていった。

 そんな中、オーロラが訪問したのだから、王宮内は冷え切っていた。

 王たちも噂は知っていたが、打ち消す要素がなく、そのままにしていたのだ。


「……どうしたのよ。何があったのよ!」


 ここは、王宮のすぐ近くの屋敷。

 トルテ侯爵の邸宅である。

 その一室で叫んでいるのは、トルテ侯爵令嬢デルフィーヌ。

 ダラスの従姉妹である。

 王妃の兄、トルテ侯爵の一人娘のデルフィーヌは、当初ダラスの婚約者候補だった。

 けれども彼女の理想は、線が細い美少年ではなく、ガッチリ系の美丈夫。

 筋肉大好き、厚い胸板に抱かれたいと思っていた。

 なので、ダラスの婚約者の候補から自ら降りた。

 そうして月日が経って、オーロラのため体を鍛え始めたダラスを見て、彼女の気持ちは変わっていった。

 彼の体は日々鍛えられ、デルフィーヌの理想に近づく。

 男らしい割れ顎に凛々しい顔つき。

 オーロラにかけられた呪いがダラスによって解かれなければ、デルフィーヌは彼の婚約者になろうと待ち構えていた。

 けれども彼女の期待は裏切られ、呪いは見事に解けた様だ。

 しかし戻ってきたダラスの様子がおかしい。侯爵家のありとあらゆる力を使い、その理由を探った。それで、結論は、成長したダラスの姿にオーロラがショックをうけたというものだった。

 それを知ったデルフィーヌは、オーロラが王宮に来るまでに噂を広めることにした。

 誰も否定することなく、噂は広まり、デルフィーヌはオーロラはダラスの成長した容姿が苦手、あえていうなら嫌いであると、自分の中で結論を出していた。

 このままダラスがオーロラを拒絶しつづけ、王宮内で彼女が孤立すれば、婚約は解消される。

 デルフィーヌはそう予想していたのだが、裏切られた。

 二人は仲直りして、毎日の様に一緒に過ごしているということだった。

 こうなれば噂などすぐに消えてしまう。


「まだ間に合うわ。まだ」


 諦めの悪いデルフィーヌは二人を裂く方法をどうにか考えようとしていた。







 

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