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オーロラ、隣国へ出荷される。

「ああ、どうしたら」

「どうも、こうもないねぇ」


 馬車の中でフォレスタン王国の王女オーロラに、魔女バーバラが答える。バーバラは侍女らしく、簡素なドレスを身につけていて、どこからみても魔女には見えない。

 バーバラの思いやりもない言葉に、オーロラは苛立ちを覚え睨みつける。


「あなたの言葉に乗ったからこんなことに」

「そうかねぇ。どっちにしても成長したらダラスも美少年ではいられなかったと思うよ」

「それは、そうだと思いますけど」


 オーロラは妖精のような美少年が、ほっそりとした美青年に成長するを期待していた。けれども現実は異なり、騎士の中の騎士、男の中の男、の屈強な美丈夫に成長していた。

 オーロラはその昔筋肉質な男が苦手だった。それは、小さい頃、街にお忍びで連れて行ってもらった時に、女性が体躯のよい男性に襲われているを見て、恐怖心をもってしまった。

女性は「ケツアゴ、離せ!」と叫んでおり、見兼ねた護衛が男を押さえた。その男の顎は割れており、ケツとはお尻の事であり、顎がお尻のように割れているので、ケツアゴだと理解した。

 月日がたち、オーロラは好みではないが、逞しい男性に対して苦手意識がなくなってきていた。騎士が側に控えても何も感じなくなっていたのだが、顎は別だったようだ。

 ダラスの割れた顎を視界に入れた途端、叫んでしまったくらいだから。


「選んだのはオーロラ。お前だ。しかもお前はダラスの真実のキスによって目覚めた。真実のキスというのは、双方の想いが通じているものだ。オーロラ、実際はまだダラスのことが好きなんだろう?」

「わからないのです。以前のダラス殿下のことは愛してました。全力で!だけど、今のダラス殿下は」


 余りにも外見が変わりすぎて、オーロラは自分の気持ちがわからなかった。

 

「中身は一緒だろう。ダラス殿下と話をすりゃ、気持ちも戻るさ。まあ、戻らないときゃ、真実の愛なんてないんだと思うことにする」

「真実の愛?」

「なんでもないよ。さあ、今日の昼にはケリスタンに到着するんじゃないかい?」


 バーバラはオーロラの問いに答えず、窓から外を見た。


 一ヶ月前、オーロラは長い眠りから目覚めた。

 四年の間、茨に覆われていた城は、この四年何事もなかったように損傷すらしてなかった。少し汚れがあるくらいで、一日かけて使用人総出で掃除をすると翌日には城に住めるようになった。

 オーロラは余りにも長い眠りだったため、歩行をするのが困難で、そのまま部屋に住んでおり、体調が戻ってから歩行訓練が始まった。

 その訓練の合間に、オーロラは説教を王妃から喰らう。


「どうして馬鹿なことをしたの?何を考えているの?この四年、大変だったのよ?」

「オーロラ。どうして相談してくれなかったんだ。こんな馬鹿なことしなくてもよかっただろうに」


 バーバラから事情を聞いているので、オーロラが自ら望んで呪いの魔法にかかったことを王妃と王は知っている。

兄である王太子も知ってるはずで、何か言いたげだが黙っている。


「それはもう、済んだことだからいいとして」

「え、いいのですか?」


 王妃が溜息をついた後そう言ったので、王太子が思わずツッコミを入れた。


「だって、今の問題は別のことですもの」

「そうですね」


王妃が額を押さえ、王太子は神妙に頷く。

オーロラは二人の様子に訝しげに首をかしげた。


「ダラス殿下はお前の呪いを解いた後、体調が悪くなって、ケリスタンに戻ったのだ」


痛ましそうに話すのは父である国王。


「それから使者は送られて来ないわ。こちらから、あなたの呪いを解いたお礼をしたいとパーティのお誘いをダラス殿下に送ったら、断られたのよ」


王妃は嘆くように首を振りながら、王の後に話す。

次は兄で、オーロラを見ながら息を吐く。


「ダラス殿下が誘いを断ることなど、君と婚約してからなかった。用事がなくても年に二回は必ず来ていたし」

「オーロラ。話しなさい。何があったの?」

「な、何もありません。私は知りません」

「バーバラ。何があったか話してくれるわよね?呪いの魔法を私たちに断りもなく使ったことを、私たちはまだ怒っているのよ」


 魔女相手に怒りをぶつけられるのは、友である王妃とその娘オーロラくらいなものだった。


「わるかったよ。四年はちと長かったねぇ」

「だったら話してくれる?」

「バーバラ様!ダメですよ。絶対にダメ」

「オーロラ。何かあるのね?バーバラ、話してちょうだい」


 こうなれば、バーバラは王妃の味方だ。

 この場から逃げ出したいが、足はまだ自由がきかない。ベッドから立ち上がり、逃げ出そうとしてもすぐに捕まるだけだった。

 顔を伏せて審判の時を待つしかなかった。


「呪いの魔法は、真実のキスで解けるのは話したね?」

「ええ」

「だからダラスはオーロラに口づけをした。それで、目覚めたオーロラが叫んだのさ。『ケツアゴ〜』と」

「な、なんてことを」

「なんたる事を言ってしまったのだ」

「オーロラ、それは思っていても言ってはいけない」


 王妃と王はその場に崩れるようにしゃがみ込み、兄はがっくりと肩を落とす。

 ショックのあまり礼儀作法がすべてぶっとんでしまった。幸運なことに部屋には五人以外誰もいない。


「それで、ダラス殿下はショックをお受けになって、お国へ戻られたのね」


 王妃は床にペタンと座り込み、ぽつりと力なくつぶやく。


「どうしたいいんだ。このことがケリスタン国王に知られたら……」

「終わりかもしれない」

「まったく落ち着きな。どうもこうもない。オーロラ自身に責任をとってもらうしかないのさ。元からオーロラはダラスと結婚して向こうに住む予定だっただろう?だから、向こうにいってダラス殿下に謝るのさ。真心込めて謝れば、許してくれる。あと、もしこのことが国王にバレていたとしても、ダラス殿下が諌めてくれるだろう?」

「そうね。そうよ!それが一番いいわ」

「そうだな。そうしよう」

「決まりですね」


 バーバラの言葉に乗り、王と王妃は娘をケリスタンに送ることにした。

 名目は、お礼のため。そして結婚前の花嫁修行だ。

 王は直ぐ手紙をケリスタン国王に送る。

 数日後、返事が来て、オーロラが通常の生活を送れるようになる一ヶ月後に、出発することになった。

 バーバラは侍女としてオーロラに同行する。



 


 


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