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真実のキス

 あるところにとても美しい王女がいました。

 けれどもある日、王女は魔女の怒りに触れ、呪われてしまったのです。

 王女の周りは茨で囲まれ、侵入者を拒むように茨が城を侵蝕していく。

 茨は王女以外を排除しようと動き、王を含め城に住まう人々は城から放り出されました。誰もいなくなった城には魔物が住むようになり、王は騎士を何度か城に送りましたが、王女の部屋にたどり着く事はありませんでした。


 王女が眠り、城が茨に覆われてから四年。

 隣国の王子が、王女を助けるためにやってきました。

 王子は王女の婚約者であり、王女が眠りの呪いにかかったと聞き、すぐさま国を飛び出そうとしました。ところが城を囲む茨と魔物の話を聞き、思い留まり体を鍛える事にしたのです。

 そうして、単独で竜が倒せるくらいの強さを手に入れた王子は、王女が眠る城へやって来たのです。


 茨を跳ね除け、立ち塞がる魔物を切り倒し、王子はとうとう王女の元へ辿着き来ました。

 ベッドに眠る麗しい彼の婚約者。


 眠りを解く方法は古今から決まっています。

 真実のキス。

 王子は王女の唇に己の唇を重ねました。

 その瞬間、王女が光に包まれ、茨や魔物の痕跡はすべて消し飛んだのです。


 王女は目覚め、王子の顔を見て、悲鳴を上げました。


「け、ケツアゴ!」


 おしまい。


「待って、待ってください!バーバラ様。最後のケツアゴはないでしょう?」

「でも実際、そう叫んでただろう?」

「は、はい」

「おかしいじゃないか。本当!」


 眠れる王女ことオーロラは、目の前で笑い転げる魔女バーバラを睨む。


「だいたい、何が呪いだ。私はお前の願いを叶えてやったんだ。まあ、一年足りなかったがな。だけど見た目だけならお前の方がかなり年下に見える。望み通りじゃないか」

「そ、そうですけど!」


 オーロラは魔女の呪いにかかって眠り続けたと言われているが、実際は違う。彼女は魔女にお願いして、眠りの魔法をかけてもらったのだ。

 その理由は、歳をとりたくなかったから。正確にいうならば、婚約者である隣国の王子ダラスと同じ年になりたかったからだ。

 婚約したとき、オーロラは十五歳、ダラスは十歳。

 政略結婚ではあれば、この年齢差は仕方がない。けれども、子供心に自分の方が五歳も年上であることがオーロラは嫌だった。しかもダラスは美少年。金髪碧眼、薔薇も霞んでしまいそうな美しさを持っていた。対してオーロラは茶色の髪に、茶色の目。ブスではないが平凡な顔。美しくないのはしかたない。けれども自身がダラスより五つも上であることが許せなかった。

 魔女バーバラは、王妃である母の友人。

 ダメもとで年齢差のことを相談したら、眠りの魔法のことを教えてもらったのだ。

 後先を考えないオーロラは、その魔法をかけてもらうことを願った。

 そしてオーロラが十八歳、ダラスが十三歳の時に魔法をかけてもらったのだ。

 何もしなくても五年で目覚める。

 五年もあれば婚約を解消される可能性がある。そんなことをオーロラは全然考えてなかった。

 バーバラは魔法に対して代償をもらわなかった。

 魔女は願いを叶える時、代償を要求するという。それがなくて、オーロラは一瞬だけ考えた。けれども、すぐに忘れてしまった。

 五年経てば、ダラスは十八歳。そして自身と同じ歳だ。

 そう浮かれながら、彼女は眠りについた。

 五年以内、もしオーロラに真実のキスをしたものがいれば呪いは解ける。

 バーバラはその事を伏せ、唇を歪めて笑った。


「面白いものが見れそうだ。真実のキスなんてものが存在するのかね?」


 バーバラは口調は老婆のようだが、年若い魔女だった。

 全ての魔法、呪いを解くという真実のキス。それがあるのか、確かめたかった。

 隣国の王子ダラスはまだ十三歳だが、オーロラを愛しているのをバーバラは知っていた。婚約してから半年に一度、ダラスはオーロラに会いにくる。オーロラは一年に一度ダラスの国を訪問する。

 年に三度会う婚約者たち。

 その度に両国でパーティが開かれるのだが、ダラスはオーロラに近づこうとする男どもを睨みつけ、可愛らしく彼女には微笑み、子供らしく彼女を独占した。

 周りはダラスの少し行きすぎた愛に気づいていたが、オーロラはまったく気づいてなかった。

 なので、こんなおかしな相談をバーバラにしたのだ。

 退屈していた魔女は、オーロラを使って退屈凌ぎをすることにしたのだ。

 オーロラが眠りについた後、これが解ける魔法であることはすでに友である王妃には伝えてあった。

 けれども王女の馬鹿な願いで王女自身が眠りにつき、城が機能しなくなったなど、国民に知られるわけにはいかない。そこで呪いということにしたのだ。事実を知っているのは王、王妃、王太子、宰相、騎士団長のみ。騎士団長は魔物討伐の訓練も兼ね、騎士たちを城に向かわせる。だが、王女の部屋に辿り着くには至らず、茨によって城の外に追い出されることが多かった。

 そうして四年後、体をムッキムッキに鍛えたダラスが、城へ侵入し、見事に王女を目覚めさせたのだ。


 計算違いは、ダラスの外見が恐ろしく変わったこと。美少年の面影は残っていない。身長はオーロラよりも頭ひとつ分高く、肉厚の胸筋。腕も足も鍛え抜かれ、逞しい。そしてその顔、造形は整っていて、その青い瞳の輝きは変わらない。鼻も高く…。けれどもそのアゴは二つに割れていて割れ顎。俗に言うケツアゴに進化していた。

 男らしい、まるで戦神のような美丈夫、それが今のダラスだった。


 だが、オーロラが好きだったのは華奢で、庇護欲をそそる美少年。

 真逆のタイプだった。


 キスをされ、目を開けた瞬間、視界に入ったケツアゴに驚き、叫び声を上げてしまった。

 それが「ケツアゴ〜」だ。


 この事実を知っているのは、オーロラと王子ダラス。そして魔女だけだった。



 





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