家族も教育も恋愛も話し合いは大事!③
「アクティブラーニング、ですか? なんとなくは……」
「これからの生徒は、自ら考え学ぶ姿勢を身に付けていかなければならない。桜女の生徒は、その素養が十分にある。少なくとも日常生活では、それが出来るように育てられている。なのに、授業となると途端に一方通行になる。単純に教え込むだけでは、これからはダメなのだ。自ら学ぶ生徒を育てなければ。それは、教師も一緒になのだよ」
「……サホ。生徒は知らないかもしれないけど、父さ……理事長は、非常勤も含めて現職の教員に、授業研究や研修……要するに、もっとよい授業が出来るように外部の教育機関や大学の講義が聴講出来るよう勧めたんだよ。費用を学校側で持つことも伝えて。けれど、半分以上の教員は、賛同しなかった。その理由として部活動の顧問の多忙さを挙げたんだ」
「確かに、部活動の顧問をすることで余暇を逼迫されている例は多い。顧問の負担軽減や勤務時間を適正化するために、部活動の統廃合も含めて調査したところ……3分の1ほどの部活動が、有名無実、ほとんど活動していないことも分かった。生徒数に比べて、部の数も多く、兼部を認めているとはいえ、十分な活動が出来ているとは言いがたい部も多かった。なのに、全ての部に部費は支給され、顧問の監督のもと年度末には使い果たしている。どう言うことか分かるかね?」
「……横領、ですか?」
「そこまでは言わないがね。活動とあまり関係のない経費が、顧問黙認……いや、もしかしたら積極的に浪費されている可能性があった。今年度、経費の見直しのために詳細な会計報告を求めたところ、適正な運営をしていた部活動は半分弱。君の茶道部は、模範にしたい綿密な運営をしていたがね。これは、松前さんの指示かな?」
「……いえ。会計は、先輩達がかなり改善したって聞いています。松前先生は、その……少し浮世離れしていたので」
根っからのお嬢様で、ちょっと金銭感覚は、こう……ぶっちゃけズレていたかもしれない。
茶道部は、遠藤先輩や高村先輩の代以前から、わりとコスパにも目を向ける人材が豊富だったらしい。
お姉ちゃんも茶道部だったけど、その頃にも会計をきっちり見てくれる部員がいたって。
「だろうね。金銭にこだわらないことは、人間性としては決して悪くないと思うが、顧問としては、ね」
……間違っていないけど、こういう高級車乗り回しちゃう天上人に言われると、少し複雑なんですけど。
でも、言いたいことは、分かる。
確かに、伝統○○研究会とか、○○文化研究会とか、名前だけは立派だけど何をしているのかよく分からない部があったのは確かで。
新入部員の入部を待たず、部員も顧問もいなくなって消えちゃったけどね。
「非常勤の教員に対しては、自己研鑽を義務として、研修参加を課したところ、退職が続出した。まあ、結果的に私が辞めさせたと取られても、仕方がないがね」
「……一方的に責めるような言葉を使い、申し訳ありません」
「いや、私の責任で行ったことに、間違いはない」
「でも……やっぱり、理事長は間違っています」
「サホ!」
突然爆弾発言をした私を、リクが慌てて制したけど。
これだけは、言わないと。
「ちゃんと、伝えるべきです。何故、改革が必要なのか。どんな問題が、あって、どう変えていくべきなのか。理事長は、自分達で考えることができるように、私達生徒を育てたいと仰いました」
「ああ」
「だったら、私達をもっと信用してください。私達だって色々考えています。でも、闇雲に押し付けられたら、私達は反発するしかありません。確かに、それで頑張れることもあるかもしれませんが、できれば、一緒に学校をよくしていきたいです。先生方が、もっと自己研鑽しなくては、って思わずにはいられないくらい、沢山質問したり、疑問をぶつけたり……おこがましいかもしれませんが、とっても勉強になった、もっと学びたいって、伝えたり」
「サホ……うん、そう言ってもらえたら、教師だって、もっと頑張れる」
ぎゅっとリクが私の手を強く握り直した。
「理事長……全てとは言いませんが、もう少し、生徒にも理由を説明してもいいのではないでしょうか? 少なくとも、単に成績のみ求めているわけではない、学校をよりよくするために、生徒の協力も必要なのだ、と」
リクがそう提案し、理事長はうなづいた。
「……善処……いや、検討しよう。何も知らされないで事が進むのは、やはり不安だろうしね。私も、言葉が足りていなかった部分があるだろうし。部の統廃合についても、もっと腹を割って話し合おう」
やった!
少なくともこれで、部員数や成績だけで廃部になるようなことは避けられるかも?
もちろん、もっとじっくり評価されることにはなるんだろうけど。
でも、話し合えるって、絶対大事!




