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突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが  作者: 清見こうじ


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賛成してくれるのは嬉しいですが温かく見守るだけでお願いいたします②

 20数年越のプロポーズは上手く行ったようで、お師匠さま、理事長の腕に手を添えている。


「どうした? 苳子、泣いているのか?」


 苳子さんの泣き顔に気が付いた理事長がそう尋ねると、せっかく泣き止んだ苳子さん、再び目元がうるうるとし始める。


「だって! 兄さん! 利久が! この子に! 教え子に手を出して!」


「だからまだ健全な付き合いだって。ちゃんと将来も誓いあっている、真剣な交際だよ」


「だからって! 高校生なのよ?! 一体いくつ年が離れていると思っているの?」


「7歳だけど?」


「そんな年下のお嬢さんを、よりによって教師のあなたが!」


「……いや、まあ、将来結婚する気だというなら、まあ、いいんじゃないか?」


「兄さん?!」


 思いがけず、理事長の口から援護の言葉が出て、苳子さんは目を白黒させる。


「だよね。教育者でも、年下の女子高生相手に恋をしたって、いいよね?」

「ダメよ!」

「何で?」

「そんなこと、千野家や高宗家の人間が……」

「母さん、父さんといくつ違いだっけ?」

「……え? ……8歳だけど」

「ってことは、由利恵さんも、父さんとは8歳違いだよね?」

「そう……よ……」

「で、聞いた感じだと、高宗の家に引き取られたのって、高校生の時だよね? で、母さんが千野に嫁いだ年には、もう俺が生まれている。さっき、結婚は成人しての約束って言っていたけど、母さんが結婚したのって、本当は19歳だよね? 高校卒業後すぐ。と言うことは?」


 苳子さんが高校卒業後すぐに結婚して、その年にはリクが生まれている、ってことは。


 リクが生まれるための、その、色々な出来事が、高校卒業前後くらい? 理事長の話だと、その前からこっそりお付き合い自体はしていたっぽいし……あ、お師匠さまか高校在学中に、もう交際していたってこと?


 

「……でも、兄さんは、由利恵さんの、担任じゃなくて……だから……」


「教育者には代わりないよね?」


「……そう、ね」


 リクに言いくるめられて、苳子さん、二の句が告げなくなる。


 ちょっと気の毒になってきた。


「あの、本当に、高校卒業するまでは、清らかな関係でいますから……」

「ちょ!? サホ! そういうこと勝手に宣言しないで!」


 せめて少しでも安心させようと苳子さんに言うと、リクが慌てて制止する。


「だって、正式に婚約するまでは、絶対手を出さないって誓ったの、リクだよ?」

「だから、高校在学中に婚約は整えるって!」


「……なるほど。それなら……。幸いにも家柄もさほど問題ないようだし」


 フムフムと理事長、顎に手を当てて、何か企んでいる顔をする。


 あれ? でもなんで? 苳子さんに比べて理事長、あんまり驚いていなかったし。

 リクが話しておいた、って感じでもないよね? さっきの口ぶりだと。

 お師匠さまが勝手に話すはずもないし。


「兄さんは知っていたの?」


 だんだん落ち着いてきて、私と同じことが気になったらしい苳子さんが、理事長に尋ねる。


「いや。だが、ずっと手をつないでいたし、それに見れば利久がこのお嬢さんにベタぼれなのは分かるだろう?」

「そう……なの?」

「一目で分かったよ。なんと言っても、由利恵にそっくりだ。顔かたちじゃなくて、その、雰囲気がな。昔の由利恵を思い出させる」

「……そう言えば」


 苳子さん、まじまじを私を見つめる。


 そうなんだ? お師匠さまと私って、似てるの?

 前にリクにも言われたけど。


 学校で初めて挨拶した時に、理事長の表情が一瞬変わったのも、そのせい?


 お師匠さまの所作に憧れてきた私にとっては、何だかとっても嬉しいことなんどけど。


「でも、由利恵というより……」

「映子さま、よね? だって、私にとっては映子さまこそ、憧れのお姉さまで、映子さまのようになりたかったのだもの、あの頃」


 うっとりとするお師匠さまに、苳子さん、納得したように首を何度も上下に振る。そして、同じようにうっとりして。



「そうね。素晴らしいお姉さまだったわ。大和撫子の鑑よね。とてもお優しくて……確かに、似ているかもしれないわ」



 確かにお母さんの所作も綺麗だけど、そこまで?


 というか、そんな存在だったの? 桜女時代のお母さんって。


「ああ、なるほど。苳子の憧れていた先輩か。通りで。なんだかんだで、利久は私とも苳子とも好みが似ているからな」

「……いや、好みだけで片付けないでほしいんだけど。誰かに似ているとじゃなくて、俺はサホがサホであるだけで、大好きなんだけど」


 ……嬉しいけど、あんまりこんな場面で『大好き』とか、ストレート過ぎて、恥ずかしい。


「そう、映子さまに似ているのね」

「だから、似ているとか、関係ないから」


「でも、やっぱり、交際は慎重にならないと。良いお嬢さんなのは良く分かるわ。けれど、そうでなくても兄さんの強行策で、桜女の内部でも色々あるのだし、表向き縁戚の利久が教え子と交際なんて、反対派からしたら都合の良い醜聞なのよ。もし露見したら……」


 うーん、なんだかんだ言っても、やっぱり苳子さんて、理事長の妹なんだね。真剣な顔で冷静に分析しているところは、すごく理知的に見える。

 

「だが、『なかざわ』のお嬢さんなら、実はあらかじめ婚約していたという大義名分も通るだろう」

「え?」

「お前の大好きな『映子さま』の、お嬢さんだろう?」


 理事長、知っていたんだ? まあ、名字は伝えてあるし、うちが和菓子屋なのも知っていたし、そう言えばさっき、苳子さんもお母さんの結婚の話、していたもんね。


「……利久! 今から映子さまのところに行くわよ! お嬢さんを下さいってお願いに!!」


「ダ! ダメだ! それは俺のセリフ!! というか母さんが出てきたら、話が壊れる!」


 さっきまでの理知的な横顔がどこかに消えて、目を爛々と輝かせている苳子さん……猪突猛進モードだ。


 うん、できればすべて整ってからお願いいたします。



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