賛成してくれるのは嬉しいですが温かく見守るだけでお願いいたします①
リクの衝撃発言で現在大恐慌中の苳子さん。
「やっぱり、ダメよ! 教え子に手を出したなんて、千野家や高宗家の名誉に関わるわ!!」
そう叫んで、頭に血が上りすぎたのか、不意にクラっと体を揺らめかして、その場にあった籐椅子に座り込んだ。
「大丈夫ですかっ?!」
思わずリクの手を振り払って、私は苳子さんに駆け寄り、その顔を覗き込んだ。
真っ青になって憔悴している苳子さんの肩をさすると、「ううっ」と今度は身を屈めて、顔を覆って泣き出してしまった。
これって、リクの発言の……つまりは私のせいだよね?
いくらなんでも、お師匠さまと再会したり、知らないで過ごしてきた事実が判明したりと色々な出来事が起きているタイミングで、リクの「教え子と結婚前提にお付き合いしています」発言は、やっぱりまずかったんじゃ?
しくしく泣いている苳子さんにどう言葉を掛けていいのか分からず、私は何となくその背中をさすり始めた。
「ううっ……あなた、優しいのね……」
突然顔を上げてそう言うと、苳子さんは私の胸元に顔を埋めるようにして抱きついてきて……再び泣き出す。
しかも大声で、ワンワンと。
「ちょっ!? 母さん! サホがつぶれる!」
「……大丈夫、何とか」
膝立で苳子さんの体を受け止めるように体勢を立て直し、その体を支える。
少女のような容姿の苳子さんは、体もほっそりしていて、多少体重を掛けられてもそこまで負担ではない。
抱きつかれまま、仕方ないので背中をさすり続ける。
やがてだんだん声が小さくなって、苳子さんの泣き声はワンワンからシクシクに戻り、やがてヒックヒックと鼻を啜るレベルまで小さくなった。
その頃になってようやく私の体から離れて、指先で涙をぬぐい始める。
反射的にハンカチを差し出そうとしてポケットを探ったけど、ハンカチがない。
そう言えば、ここに来る前に、汗だくだったリクに渡して、そのままだった。
仕方がないので、代わりにポケットティッシュを取り出して、苳子さんの目元にあてがうと、それを受け取って自分で涙をぬぐった。
急に静かになってしまい、何となく気まずい時間が過ぎる。
何か言わなくちゃ、と思いながら、助けを求めるようにリクを見上げた。
と、カチャっと音がして扉が開いた。
理事長とお師匠さまが、帰ってきた。




