泣く子と先輩には逆らえない! ②
「第二に、かむちゃん、今日休んだから、いない」
「高村先輩が?」
「そ。母方のひいじい様が亡くなったんだって。99歳、大往生よねぇ」
「それって、去年文化祭に来てらした……」
「そ。あの元気なおじい様。亡くなる前の日まで、畑耕してたんだって……ツヤツヤピカピカお肌の安らかなお顔だってメール来てた」
「それはご愁傷サマというか、なんと言うか」
「で、第三に……」
遠藤先輩は、にっ、と笑って。
「あの、もしかして……」
「名前からして茶道向きよね。……センノ・リキュウだなんて」
「……リク、です」
「そうそう、リク先生」
やっぱり。
よりによって。
「……私、ちょっと……」
後退りながら、逃げ道を探る私の腕を、遠藤先輩はしっかと掴む。
「でもよかった。顧問の引き受け手がいなかったら即廃部になるとこだったのよ……まだ、安心は出来ないんだけどね」
「……え?」
「理事長が顧問は強制しないって方針にしたのよ。顧問をやることで、通常の授業に支障がでるようなら、是非やってもらわなくていい……とか何とか」
私の腕を掴んだまま、遠藤先輩は眉をひそめて言った。
「でも、顧問なしでは部活動として管理が充分ではないから、活動を承認できない……むしろ顧問がつかないような部は活動している意味がない、なんて!」
「イタイ! 遠藤先輩イタイですッ!」
掴んだ手にやたら力を入れるから、結果的に私の腕はギリギリ締め上げられ……痛い。
「あ、ゴメン……とにかく、あんまりに横暴だから、生徒会としても抗議して……妥協案が出たの」
「ダキョウ……案?」
「とりあえず、仮に顧問を引き受けていただく。その後、部員数が満たない場合は、当然廃部。あと……」
眉をしかめながら、遠藤先輩は続ける。
「顧問の先生が、実際に部活動に関わって、あまりにも負担が大きいと考える場合は、顧問を降りてもよい、と」
「……その場合、部活は……廃部?」
「ま、すぐに、というわけじゃないけど。代わりが見つかればオッケー、かな。まあ、うちの場合、顧問の仕事なんて書類にハンコ押すくらいだし。あと外部講師がいらした時に、一応挨拶してもらうこととか、交流会とかの引率は、年に数える程度しかないし」
「じゃあ、部員集めればいいことでしょ? 私が行かなくても……」
とにかく行きたくなくて、何とか言い訳を考える私。
「だーかーら! その数える程度の仕事だって、先生が負担だって言ったらおしまいなの! ……その点で、自分の担任するクラスの教え子がいれば、気軽な感じだし……断りにくいじゃない?」
フフフ。 口の端を上げて、花がほころぶように微笑む遠藤先輩。
そう。遠藤先輩って、怖いけど結構な美人。
私も去年は騙された。
でも。
目が、目が……笑ってないー!
私は背筋がスーっと冷えていくのを感じ、確信した。
逃げられない……!
「……何でそんなに嫌がるのかなぁー? 聞かせてくれない?」
……見抜かれてるし。
「……話したら、行かなくてもいいですか?」
上目遣いに、先輩の顔を窺う、と。
満面の笑顔で、にっこり。
「ちゃーは一緒に行くの。ハイ決定」
……怖い。
泣く子と地頭には逆らえぬ、とは言うけれど。
地頭なんて歴史でしか出てこない存在、私は怖くも何ともない。
怖いのは……遠藤先輩の、確信犯的、笑顔。
(そういう意味では、高村先輩の笑顔だって、場合によっちゃ怖い。裏がないように見える分、余計)
格言。
泣く子と先輩の笑顔には、逆らえないっ!