この流れで突然彼氏の親に紹介されて反対されるのは想定内ですよね②
実の息子が、離れて暮らしていたとは言え、他の女性をお母さんとして心から慕っている姿を見て、きっとありがたいけど、複雑な気持ちだったと思う。
リクに会わないようにしていたのは、感謝しなければいけないという思いと相反する、嫉妬から目を反らしたかったのかもしれないなあ。
「映子さまがあなたを地元に連れ戻したと聴いて、いつ訪ねて来てくれるかと、ずっと待っていたのに。結局、会いには来てくれなくて。映子さまが代わりに見守ってくださるから、決して居場所を探るようなことをしないで、と仰られたから、あなたを待とうと思って……でも、やっぱり会いに行けばよかったわ」
「映子さまが……。そうね、もし、苳子さんが会いに来られたら、今度こそ私は、本当に遠くへ逃げたしたかもしれないわ」
「え?」
「私、とてもズルかったのよ。利久には会いたい、利久に幸せになってもらいたい、そういう気持ちとは裏腹に、利久が今の家族の中でも笑顔でいることがツラかったし、利久を捨てたと、利久を捨てた母親だと思われたくなかった。人知れず遠くから見守る、という立ち位置を守ることで、何とか心のバランスを取っていたの。映子さまは、決心がついたらいつでも橋渡しをしてくださるって仰られて、決して無理強いされなかった。それに甘えてしまってもいたのね」
「でも、もういいでしょう? すべてが明らかになって、利久にも事情を伝えたのだし。今度こそ、この家に……」
「いえ、それは、やっぱり……」
断りつつも思い悩む様子のお師匠さまに、苳子さんは、その手を握りしめてグイグイ迫る。
……あ、こういう強引さ、絶対リクにも影響している。
一人でウジウジ悩むところとかは、お師匠さまの血も受け継いでいる感じがするのに、やっぱり環境というか、育ての親の影響って、あるのかな?
「いや、苳子、ちょっと待て。今後は気兼ねなく会うのはいいとして、何でお前と一緒に住むんだ? 今は利久もこの家に暮らしていないし。それは、他の人間に任せるべきでは……」
「だって、利久のアパートじゃ二人で住むには狭いでしょう? ここは実家なんだし、利久がちょくちょく帰ってくれば……」
「いや、利久と、という訳じゃなく……」
言葉を濁しているけど、要するに、理事長自らがお師匠さまと一緒に暮らしたい、ってことかな?
「え? だって、利久の実母なんだから、ここで母親同士、一緒に暮らせば、利久も実家帰り一回で済むでしょう? そうだ、お茶室も作ってあるのよ。いつか、由利恵さんが帰ってきた時のために、利久にもちゃんとお作法仕込んでおいたから……」
へえ、リクに茶道を教えたのって、苳子さんなんだ?
なら、わりと上級者なのかな……ってそうじゃなくて!
イライラしている理事長を見て、リクがため息をついて口を挟む。
「あのさ、今さっき、自分の思い込みだけで他の意見を訊かず突き進むのはやめようって話したばっかりだと思うんだけど。母さんが、由利恵さんを大好きなのは、分かったけど。同じくらい、いまだに由利恵さんを想っている人間が、ここにいるだろう?」
「え? やっぱり、利久は由利恵さんと暮らしたいの? なら、この家に戻ってくれば……」
「じゃなくて! もう! 父さん! ハッキリ言えよ!? 母さんに婉曲話法は通じないって!」
「……そのようだ。これまでの話の流れで分かってもらえないのは、教育者の家柄としては忸怩たるものがあるが。苳子。私は……」
「ちょっと待て! 父さんも、相手が違う! それは、本人にキチンと言うべきだよ!」
はあ。
リクが手順すっ飛ばしたり、私の頭越しに先輩にデートの許可を取ったり、いろいろハチャメチャなのって、この家族のせい?
なまじっか知力が高いから、ハッキリ言わなくても相手に通じるとか思っているんじゃないだろうか?
これは、事細かに確認していかないと、リクも同じ失敗をやらかしそう。
うん、気を付けよう。
でも、さすがにこの一連の出来事でリクも学んだんだろうな。的確なアドバイスができているよね。
「ああ、そうか、そうだな。……由利恵、私は、ずっと君を待っていた。君以外の女性とは、一切……」
「ストップ!! せめて、他の部屋でやって! 滝本! ふたりを花壇のベンチにでも連れてって!」




