この流れで突然彼氏の親に紹介されて反対されるのは想定内ですよね①
いろんな行き違いが生じていたことが分かり。
改めてリクに対して、お師匠さまは向き直って。
「本当に、私がもっとキチンと、皆さんにお伝えするべきだったのね。ごめんなさい。あなたにも寂しい思いを……いえ、この様子を見ていると、苳子さんも久弥さんも、滝本さんも……皆さん、あなたを大切にしてくれたようね。本当に、感謝してもしきれないと思います」
「……確かに、母さんも父さん……伯父さんも、俺に良くしてくれたけど。でも、あなたが俺のことを気にかけてくれていたのは、なんとなく分かります。生まれてすぐ別れたのに、俺を見て、よく分かりましたね? もしかして、伯父さんの若い頃に似ていた、とか?」
「どちらか言うと、苳子さんに、かしら。久弥さんは、もう少しだけ大人っぽくて……そうね、今日の学校でのあなたみたいな感じで。それに……実は初めてではないのよ、あなたに会うのは」
「え?」
「昔、一度だけ。私が本格的に茶道を生業として独立しようと、関西から東京に出た時に、苳子さんから『会いたい』って連絡をいただいたの。映子さまにお会いしたあとで。詳しい事情まで話さなかったのに、ご存じだったのでしょうね」
「そうね。映子さまには、その、こっそり相談していたから。……実は、あなたに出会ったのも、まるっきり偶然と言うわけではないらしくて」
「え?」
「もうお話してもいいわよね? 映子さま、お付き合いされていた老舗の和菓子屋さんの跡取りの方との結婚が決まって、お世話になっている茶道の家元さまにご挨拶に伺った時に、あなたを見かけたらしいの。由利恵さんが、家元さまに住み込みで弟子入りしていた頃でしょうね。でも、あなたの事情を聴いていたから、陰ながら様子を見られていたのでしょうね。私にも、今は自立するために修行に集中させておあげなさいって仰られて。いつか、会わせてあげるから、って」
何だか、要所要所にお母さんの名前が出るんだけど。
本当に、桜女OGの団結力というか、コネクションってすごいわ。
「それで、私が茶道教室を開こうと悩んでいる時に、タイミングよく現れてくださったのね……映子さまらしいわ。困っている時には、すっと手を差しのべて下さって。でも、ずっと見守って下さっていたことをおくびにも出さないで」
「ええ。それで、できればあなたを地元に戻らせたいから、里心を刺激するようにって」
「え? もう会えないかもしれないから、せめて利久に会わせたいって……」
「そう言わないと、あなたは遠慮して利久に会おうとしなかったでしょう? 実際、うちの場所は分かっていて、こんなに近くにいたのに、頑なに会おうとしないで」
「……そうね、確かに。私も、意地になっていた部分もあったし。でも、あの時は、本当に嬉しかったのよ。小さな利久に会えて」
「あの時?」
リクは、一生懸命に記憶を辿っているけど、思い出せないみたい。
「利久と二人で出掛けるのに一番自然だからって、遊園地で落ち合うことになって。せっかくだから、利久が行きたがっていた、あのランドに行こうって、誘ったの」
苳子さんが補足してくれた。
……って、ランドに?
それって、リクがなんとなく覚えていたって言う、あの思い出の? お母さんの他に、もう一人いたって言う、若い女の人。
「……あの時の、お姉さんが、由利恵さん?」
リクも思い当たったみたい。
「覚えていたの? まだ小さかったのに」
「いや、おぼろ気だけど。母さんの他にもいたなって。てっきり付き添いのメイドさんかと思っていたけど」
「そう……そうね。あの頃、たぶん6歳になる、ちょっと前だったはず。あなたは、苳子さんにとてもなついていて、本当に仲の良い親子で、とても愛されているって分かったわ。私にもなついてくれたけど、むずがる時は苳子さんじゃないとダメで……本当に、感謝して……ありがたくて……」
お師匠さま、「感謝」とか「ありがたい」とか、仰られているけど。
本当は、ちょっと……かなり寂しかったんじゃないだろうか?




