ひとりで何でも解決しようとするとすれ違いを生むのでホウレンソウが大切ですね②
「伏線を張っておいて、出産後に口説くつもりだったのかもね。甲斐性なしのくせに、そういう知恵は働くんだから。利久が産まれた後も、そこに『せめて愛する兄の血を引く子を自分で育てたいと引き取った、自分との夜の生活は拒否されている』って設定が加わったし。本気にした浮気相手に何人も同じ内容で責められたんだから。ふざけないでほしいわよ。子供ができなかった原因は明久さんだって分かっているのよ。おかげで利久の義理の兄弟の出現も起きずに済んでいるけど」
「え?」
「なまじな名家だから、結婚前にブライダルチェックもさせられたし。まあ、結婚前に私の瑕疵を見つけて、あわよくば弱みを握って破談にしようって思惑もあったのかもしれないけれど、結果は男性不妊。なのに、結果を隠していたのよ。由利恵さんのことがあって、病院に問い合わせて分かったけど。……それで、兄さんの子供なら千野の血筋を引いているし、むしろ好都合だって話になって」
「ちょっと待って!? 久弥さんの子供ならぜひって、そういう理由で?」
「だって、由利恵さんが兄さんとは結婚できないって言うから、てっきり他に好きな人がいるんだと。だからてっきり、一夜限りのお相手としてもてあそばれたんだと。だったら、高宗家で責任を取るべきだってお義母さまと……」
高宗って、確か理事長の名字だ。
なのに、引き取ったのは千野さんちなんだ?
家関係ごちゃごちゃしてきた。
「だからなんで一言確認してくれなかったんだ?! 国際電話でもなんでも、手段はあっただろう? お前なら由利恵をおかしな虫から守ってくれるって、信じて任せて行ったのに」
「そりゃ、言われなくても守るつもりでしたけど! でも、だったら、なんでちゃんと説明していってくれなかったの?」
「それは……恥ずかしいじゃないか。妹の友人にいつの間にか手を出していたなんて」
恥ずかしいと言えばそうだけど……そこは話していくべきだったと思いますが。
「そこは話していくべきだっただろう……」
そっくり同じ言葉を、リクが言う。
顔に出てたかな?
「そうよ。だから、てっきり、遊びなんだと思っていたし。それに兄さん、案外執着するから、いざ逃げるとなったら、追いかけてきそうで。だから、こっそりかくまおうと思って」
……うわ、リクもかなりヤキモチやきだけど、理事長も?
というか、なんなの、これ?「……結局、それぞれが勝手に判断して、突っ走って。本来なら単なる『出来ちゃった結婚』になるだけだったのに……はあ、いい大人のコミュニケーションエラーで、俺、20年以上、翻弄されてきたのかよ」
リクがぐったりとして。
くたびれ果てたリクに、執事風おじさまがお茶を差し出す。
「ああ、ありがと」
「全く。久弥さまも久弥さまです。この滝本が、何度もご連絡差し上げても、一向にお返事なさらず。国際電報までお送り致しましたのに」
「へ? あ、いや、どうせ母の愚痴か小言だと……」
このおじさまが、滝本さんらしい。
「こちらのお嬢様も呆れていらっしゃいますよ。利久ぼっちゃままで置いてきぼりにして、好き勝手にお話しされて」
「……いや、事情はすごく分かったから、まあ、それはいいけど。……頼むから、ぼっちゃまは、ヤメテ……」
リクが恥ずかしそうに滝本さんに言うけど、この期に及んでまだ手を離さない方が恥ずかしいんだけど。
「そもそも大奥さまも大奥さまです。高宗家でと言いながら、結局千野家の跡取りにちょうど良いと、いつまでもご実家に介入しすぎでございます。逆に奥さまは、もう少し旦那さまに毅然となさいませ。いくら気安いとはいえ、大奥さまや久弥さまにばかり愚痴を仰って、当の旦那さまには何も仰れず。なのに肝心なことはお一人で決めてしまわれる」
滝本さん、使用人という立場とはいえ、じいやさんみたいなものなのかな?
ズバズバ言ってくれて……まあ、気持ちいい。




