ひとりで何でも解決しようとするとすれ違いを生むのでホウレンソウが大切ですね①
「まあ、そんなやりとりがあって、実は兄さんらしい、ということになって。でも、由利恵さん、今後どうしたいのかってお聞きしたら、『久弥さんとは結婚できません』っておっしゃたのよ。理由は教えてくれなかったけれど。そうして、リクの産んでまもなくして。家を出てしまったの」
「どうして……? 私の留学は1年ほどだ。苳子が擁護してくれたのなら、ここで帰りを待っていてくれれば……」
「………だって、苳子さんは、久弥さんのことがずっとお好きだったんでしょう? それに、久弥さんも」
「は?」
「戸籍上は兄妹だけど、本当は血のつながりがないって……だから、せめて久弥さんの血を引いた利久を引きとりたいんだって。それを聞いて、私は大恩ある苳子さんの思いを踏みにじてしまったんだって。それに、久弥さんにとって、苳子さんの身代わりだということも、あまりにもツラくて」
「ちょっと待て! いったい誰がそんなこと……」
「いったいどうしてそんなこと?!」
理事長とリクのおか……紛らわしいから、もう苳子さんでいいかな? 声を揃えて、お師匠さまに詰め寄る。
「……明久さん」
「はあ?! 由利恵さん、あんなバカの言うこと、真に受けたの?」
「そんな言い方ないわ。明久さんは、本当はずっとあなたのことが好きだったのよ。でも、苳子さんは久弥さんが好きで、久弥さんも苳子さんが好きで。けれど戸籍上とはいえ兄妹である以上添い遂げることはできないから、諦めて自分に嫁ぐことを受け入れたんだって話していたもの。久弥さんが苳子さんに全て任せたって、そう言うことなのか、って、納得できたし」
「そんなバカなこと! 確かに母親は違うけれど、私たちはれっきとした兄妹よ。兄として慕ってはいても、それ以上の感情なんてないわ」
「そんな……」
っていうか、リクは明らかに伯父、もといお父さんに似ていて、でも苳子さんにもそっくり。
そう、理事長と苳子さん、よく似てるんだ。
どう見たって血が繋がっているよね?
若い頃はもっとそっくりだったんじゃないのかな?
性別が違うし、これだけ美形だと、分かりづらかったとか?
まあ、妊娠したり衝撃の事実(嘘だったみたいだけど)を聞かされて、冷静な判断が出来なかったのかもしれない。
「あと、あの年中発情根無し草のバカダンナが浮気する時に相手の女を口説く時の常套手段なのよ、それ。相手の同情を引くために。報われない恋に準じた妻を見守る夫、でも本当は寂しい、虚しいって。そんな設定が付くだけで、悲しいまでの優しい男に見えるらしいのよ。ただの甲斐性なしなのに」
「……そ、う、なの、ね」
思い当たる節があったのか、お師匠さま、硬直気味になる。
「そうよ。由利恵さんも言い寄られたでしょう?」
「……時々、そんな空気は感じていたけれど。でも、妊娠が判る前には、二人きりにはならなかったから」
「滝本達が、気配を察して注意していてくれたのよ。あの人、結婚前から由利恵さんのこと、イヤらしい目で見ていたし。だから本当は、私が結婚する前に縁談を決めたかったのだけど、兄さんがうんと言わなくて」
「当たり前だ。どうして私が由利恵と他の男を取り持たなくては行けないんだ? そんなことしなくても大丈夫だと散々言っていただろう?」
「心配しなくても来年には決まるから、なんて言われて分かるもんですか?! どうしてハッキリ言ってくれなかったのよ? 由利恵さんも、どうして訊いてくれなかったの? というか、いつの間に、そんな話を」
「妊娠が分かって、お仕事を減らしてもらったから、一人になることが増えて。そんな時……。でも、その頃には、お腹に利久がいたから、それ以上のことは……」




