真実はひとつだけと言っても聞きたくない話もあるんですよ③
不意に、リクが立ち止まる。
庭の端にある、小さなかわいらしい、小屋、というには優美すぎる、小さいお家。
「着いた。母さんの趣味の部屋」
ちょっと困ったように説明するリク。
「俺だけど。入るよ」
返事も待たず、リクは扉を開けて。
中から溢れだしたのは、ピンクと白の、リボンとレースとフリルの山!
いや、実際に溢れてきたわけじゃないけど。
ものすごい圧力で、目に訴える。
「……相変わらず、乙女趣味なのね」
お師匠さま、ちょっと苦笑して。
……ああ、だから、『趣味の部屋』。
ワンルームの真ん中で、レースとフリルに囲まれて優雅にお茶を飲んでいるのは、理事長と。
「あら、リク、おかえりなさい」
振り向いたのは……え? 義理の?
義理なんて言わなくちゃ分からない、リクそっくりの。
スッゴい美人!
お師匠さまも美人だけど、どっちかと言うと儚げでしめやかに咲く撫子や桔梗のような花だとしたら。
まさに大輪の牡丹の花。
こんなレースとフリルに囲まれて、なぜか本人は和服なんだけど。
でも、似合う! 和風ゴスロリみたいなアレンジがしてあって、半襟とかおはしょりにレースがあしらわれていて……というか、リクのお母さん?! 年いくつなの?
年齢的に趣味が若いってわけではなくて、逆!
言われなかったら、20代で通る!
若すぎ! そっか、一応リクからしたら血筋的には叔母さんだから、同じ遺伝子があるのかも。
若作り……もとい、若く見える遺伝子が。
妙に納得して。
「お久しぶりね、由利恵さん」
リクを無理やり(かどうかは不明だけど)取り上げたようなことをしたなんて思えない、親しげで懐かしさが込められた声。
さっきの執事風おじさまと、同じように。
微かに目元を潤ませて。
「やっと、戻ってきてくれたのね」
明らかに再会を待ち望んでいた、というその言葉。
「……どう言うことなんだよ? みんなで追い出したんじゃなかったのか?」
「それは違います!!」
いぶかしむリクの言葉を、お師匠さまはすぐに否定する。
「あなたを養子に出して、でも戸籍は違っても、ずっとここで暮らしてと、苳子さんは言って下さったのよ。その言葉を振り切ってここを出たのは私なの」
「だから、そもそも何で、俺を養子に出す必要があったんだってことだよ! そりゃ、結婚前に子供ができたなんて風聞は悪いかも知れないけど、特別変わったことでもないだろう?」
「そこは、ちょっとした行き違いだったのよ。妊娠が分かった時、まさか相手が兄さんだなんて思わなくて。由利恵さんもなかなか教えてくれなかったから、てっきり、その……あの人、明久さんが、手を出したのかと」
「はあ? あの男の?」
誰だろう?
私の疑問に気付いて、リクは「……戸籍上の父親」と小さく呟いて教えてくれた。
……冗談じゃなく、本気で、骨肉の争いになってきた感。
「ちょっと待て! なんでそこに明久くんの名前が出るんだ?! そんな事実があったのか??」
「そんなことありません!! 私が体を許したのは、久弥さん、だけ、です」
必死で訴えながらも、お師匠さま、声が小さくなっていく。
自信がないわけじゃなくて。
うん、私も聞いていて恥ずかしいです。
お師匠さま、顔が真っ赤。
言われた理事長より、リクの方が顔を赤くして目を泳がせている。
事実は知りたいけど、これは勘弁だよね、やっぱり。




