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突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが  作者: 清見こうじ


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真実はひとつだけと言っても聞きたくない話もあるんですよ②

「……リク、すごいお家だね……」


「まあ、広いだけが取り柄の、古い家だけどな」


 この間、私が答えたのと同じような言葉だけど。


 規模が違いすぎる!!


 広さだけても、うちのお店と工場を足したより広いよ? 桜女の400メートルトラックがあるグラウンドが楽に入っちゃうよ。


 ここって。



 大きく掲げられた『千野』って表札が示す通り、リクの実家。


「今の時間なら母さんだけのハズなんだけど」



 呼び鈴(インターホンじゃなくて、本物の呼び鈴! こんな大きなお家で、飾り紐を引っ張る手動に意味はあるのかな?)を鳴らすと。



「利久さま! お帰りなさいませ!」


 奥から出てきたのは、え? 執事?


 今、『リクさま』って言った?



 いや、さすがにタキシードとかじゃなくて、ワイシャツにネクタイに黒ズボンの、サラリーマンスタイルだったけど。


 初老の品のよいおじさまは、いかにも執事というか、家内一切取り仕切っております、という風情で。



「どうされたのですか? 先ほど久弥さまも突然おいでになられて」


「あ、伯父貴もきてるんだ。なら話は早いな。客間? 母さんの部屋?」


「奥さまの離れでございます」


「分かった。あ、お客さんだから、お茶お願い」



 当たり前のように軽く命じて。


 執事風おじさまは、恭しく会釈して、それから突然現れた私たちに笑顔で(きっと内心は慌てていたんだと思うけど、そんな素振りは見せず)「ようこそいらっしゃいませ」と挨拶して、硬直した。





「……もしかして、由利恵ちゃん?」


 その呼び方には、驚きとともに、どこかホッとしたような、懐かしさがこもっていて。



「……ご無沙汰しております」


「……ああ、だから……やっと……いや、ともかく、離れへ。利久さま、お願いいたします」



 さっき、リクを見つめていたお師匠さまのように、目元を潤ませて、おじさまは足早に立ち去っていった。


「あの人は?」


「ああ、うちの使用人の、まとめ役みたいな?」



 やっぱり、使用人とかいるんだ?



「サホんちだって、人雇っているじゃないか?」



 いや、『雇って』って、字面は一緒だけど、なんか意味が違うよ。

 

 うちは商売で雇っているけど、ここんちは、家事のためでしょう?


 そう言えば、そもそも、お師匠さまも、理事長のお家でメイドとして働いていたって言ってたもんね。


 それで、お師匠さまは、リクのお母さんの結婚に合わせて、このお屋敷に来たのかな? 


 だったら、古い使用人の皆さんとは、面識があるのかも。


 あの様子だと、お師匠さま、いい人間関係築いていたんじゃないのかな?

 

 それが、どうしてリクを手離して、この家を出るような羽目になっちゃったんだろう?



 モヤモヤしたまま、リクに連れられて離れとやらに移動する。

 


 広くて迷いそうだけど、リクがしっかり手をつないで……って、そう言えばタクシー降りてから、ずっと!



 は、恥ずかしい!



「リク、手、離さないと」



 庭に出たところで、私はリクに声をかけた。



「ダメ。これから大勝負だから、充電続けないと」


 何の充電?!


 あ、私のパワーってやつね、って、もう大丈夫でしょ?!



「大丈夫じゃない。これから立ち向かうのは、良かれと思って勝手にそれぞれ猪突猛進しちゃうような猛者ばっかりなんだから」



 へ? だって、理事長と、リクのお母さん(義理の)だよね?



「サホもビックリの、猛突進だからな。まだ話聞いてくれるだけ、サホは全然かわいいもんだから」




 ……つまり、人の話を聞かない、ってこと?





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