表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/85

泣く子と先輩には逆らえない! ①

 放課後。


 先輩達に状況(じょうきょう)報告すべく、部室がわりの作法室に向かって、私は歩いていた、んだけど。


 足が、進まない……。


 まさか、私のファーストキスを奪った相手が、先生だったなんて……何て話したらいいの?


 オマケに。


 相手の方は、全く、歯牙(しが)にもかけていないだなんて。


 ミジメすぎる……。


「……行きたくないなあ」


「ちゃー! 何ヤってンの!」


 思わず本音が口についた途端、遠藤先輩の怒号(どごう)が響く。


 キョロキョロ周りを見ても先輩の姿はない。


「上! 上だってば!」


 見上げると、窓から身を乗り出すようにして、下を覗き込む遠藤先輩がいた。


 あそこは確か、生徒会室……多分、何か会議があったんだな、と予想がついた。


「今降りていくから! そこで待ってなさい!」


 え…………!?


 がーん! このまま部室へ強制連行か……。


 かといって、逃げたら……きっとメチャ怒られるだろうなあ。


 遠藤先輩がマジに怒ったら……ひえぇ、想像したくないー!



 なんて考えてるうちに、息を切らせた遠藤先輩が、校舎から飛び出してきた。



「……何、そんなに慌ててんですか?」

「あんたが待っていたくないような顏してたから! 逃げ出さないうちにきたの!」


 うう、見透(みす)かされてる……。


「さ、行くよ!」


 息を整えて、遠藤先輩は歩き出した……部室へ、ではなく、反対方向に。

 つまり、私が今歩いてきた道を、逆戻り。


「え、遠藤先輩?」


 何処(どこ)に行くんですか、と聞く前に、遠藤先輩は答えてくれた。


「国語研究室に行くよ」

「は?」


 何で……しかもよりによって、国語?


 研究室は、教科ごとの教材とか必要物品やなんかがあって……何より、その教科を担当する先生達の机もあり……そして、先生が、いる。


 先生……当然、国語教諭(きょうゆ)である千野(せんの)先生も。


「いったい、何で……?」


「さっき、新しい顧問の発表があったの。部活動の内容について挨拶がてら速やかに伝達するように、生徒会から指示されたのよ」


「ふーん、部長って、大変なんですね」


他人事(ひとごと)みたいに! 第一、こんな面倒なこと、今年が初めてよ!」


 遠藤先輩が足を止めて振り向き、キッと(にら)み付けた。


「挨拶はともかく、部活動の内容なんて、今までだったら必要なかったのに! 今年は新任の先生が多い上、前任との申し送りもろくにされてないから、暫定的(ざんていてき)に顧問になるだけだなんて!」


「は?」


「とりあえず、名前だけってこと! オマケにうちみたいな廃部寸前の部は、経験もない、全くの素人みたいな先生が、適当に割り振られたって……」


「でも、残られた若い先生で、茶道をされる先生、まだいらっしゃいましたよね?」


「……昨年度のリストラで、華道部も書道部も顧問の先生はみんな退職されたのよ」


「あ」


「書道教諭の立花(たちばな)先生は当然書道部、家庭科の水野(みずの)先生を華道部も狙っていて、取り合いになるかと思ってたら……今妊娠3ヶ月で、今年は顧問を辞退、だって」


「はあ……」


「結局、適当な顧問のなり手がない所は、適当に割り振られたってわけ!」


「……で、何で私がついていかなきゃなんでしょうか?」


 だいたいの話は分かったけど、ようは挨拶と活動内容の説明をする、っていう、最初に遠藤先輩が言った目的に尽きるわけで。


 だけど、私が同行する必然性は感じない。


 遠藤先輩1人で事足りると思うし、ついていくとしたら副部長の高村先輩が妥当(だとう)なんじゃ……?


「大有りよ!」


 ふん、と鼻を鳴らして、遠藤先輩は目配せした。


「第一に、ちゃー、アンタは我が部で唯一のお免状(めんじょう)取りなんだから。茶道歴も一番長いし」


「それは……そうなんですけど」


 遠藤先輩も高村先輩も、中学から茶道を始めたから、十分作法は身に付いてるんだけど、正式には入門していない。


 お茶の世界では、お茶を習うことと、入門は違うんだ。


 基本的に、流派に入門するには、「入門(にゅうもん)」の許状(きょじょう)を頂かなくてはいけない。


 これが遠藤先輩がいう「お免状」のことなんだけど……つまり、入門して流派のお稽古を受けるお許しを頂いた、だけ、とも言える。


 これがその上の「習事(ならいごと)」の許状(きょじょう)を頂いたんなら、堂々と「お免状取り」と胸を張れるんだけど(流派によって名前は多少異なるけど)。


 だって、所作だけ見てたら、遠藤先輩や高村先輩の方が、ずっときれいなんだもの……ちょっとジェラシー感じる。


 結局、私が落ち着きがないのがいけないのかなあ。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ