表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが  作者: 清見こうじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/85

私の知らない先生の事情~茶道部講習会その後編~②

「まあ、千野家に嫁がせたことは、思惑が外れたようだが。まさか自分の甥っ子が、あんなクズだとは思っていなかったと、さんざん愚痴られたからな。仲の良い従兄妹だと信じていたが、本心では愛人の子供だと馬鹿にしていたと気付かなかったとな」



 そういえば,従兄妹同士だったんだ、あの二人。


 まあ、祖母を介しての血のつながりはないが。



 まあ、養父からしたら経済支援を盾に結婚相手を押し付けられた挙句、子供まで押し付けられたとしたら……愛情が持てなくても、仕方がないのかもしれない。



 そういう良かれと思って、でも相手の思惑を意に介さない強引なやり口は、本当に祖母と父さんが親子なんだと感じるよ。



 俺も、似ているかもな。


 それでさんざんサホを泣かせたんだし。



「で、普通に恋人なれるはずだった由利恵さんとは、結局?」


「彼女の家が破産してな。まあいわゆる一家離散という状態になった。最終的には彼女の両親が身をもって借金を命であがなった」



 ……自殺した、ってことか?



「借金は清算されたが、身一つで世間に放り出された由利恵を案じた苳子は、彼女を家に引き取った。自分の勉強相手で世話係、メイド見習い、という名目でな。別に働かせるつもりはなかったんだろうが、彼女が納得しなかったのだろう。自分の付き添いといって高校へも通わせ、家庭教師をしてもらうからと言って華道や茶道の稽古も続けさせていた。苳子が成人したら結婚する予定になっていたから、それまでに彼女の嫁ぎ先でも探すつもりだったのかもしれない」


「由利恵さんが好きだったのなら、立候補すればよかったじゃないか」


「苳子はその計画を、話してくれなかったんだ。自分の中で良かれと思って単独で計画を勧めていたようだ。血もつながっていないのに、一人で突っ走る、そんなところは母そっくりだ」



……血筋と環境の二重連鎖かよ。


 俺、かなり注意しないと、またサホを泣かせそうだ。




「そんな苳子の思惑は知らず、ただ同じ屋根の下で暮らすようになった由利恵をこっそり口説いて、まあ……秘密裏に、恋人同士にはなれた」



 そのあたりは、あまり具体的に聞きたくない。


 結果的に、俺が産まれてくるようなアレコレがあったってことだと思うけど……生々しすぎてイヤだ。



「そんな頃、私は大学院の留学生に選抜された。金銭だけではどうにもならない、実力本位の選抜だ。そのチャンスをどうしても掴みたかった。私は由利恵に、帰国を待っていて欲しいと伝え、日本を旅立った。帰国したら、結婚しようとプロポーズするつもりだったんだ」


「そんなの、行く前に伝えるべきだろう? 約束もなく待たされる気持ちになってみろよ」


「そうだな。もしすでにお前を身ごもっていたとしたら、ひどく不安だったろう」



 そして、帰国したら、由利恵さんは消え、俺は母さんに引き取られていた、というわけか。




 でも、二人とも、少なくとも由利恵さんは、どうして父さんに伝えなかったのか?



 20数年前とはいえ、電話でも、せめて手紙でもやり取りできただろうに。


 それが無理でも、母さんに話せば、何とか連絡をしてくれただろうに。




「……母さんに、話を聞きたい」


「そうだな。お前には、その権利がある」



 権利?


 それは、父さんだってあるだろう?


 怖くて聞けなかっただけで。



 心のどこかで、由利恵さんを疑っていて、後からは聞けなくて。




 BBBBBBB……。




 スマホが震えた。


 画面を見ると。




「わかった。これから、行くよ」




 着信を受けて、黙って内容を聞いて、俺は短く返答した。




「これから、由利恵さんのところに行ってくる」


「由利恵の? それなら私も」


「俺に、ってご指名だ。……あんたの気持ちは、ちゃんと伝えるよ。それを由利恵さんがどう思うかは、分からないけれど」


 何かを言いたそうにして、けれど、黙って、父さんはうなづいた。




 それから、すっかり冷めてしまった煎茶を飲み干して。



「頼む」


 か細い声で言って、頭を下げた。





 俺は静かにうなづいて、理事長室を出た。そして。






 電話の主……サホが待つ、由利恵さんの家に向かって、歩き出した。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ