波乱含みの講習会が気付けば無事に終わりそうなのはやっぱりフラグなんですか?③
RRRRRR……。
内線電話の音が鳴り響いた。
ビクッとして、千野先生が部屋の隅に早足で移動し電話に出る。
短いやり取りをしたあと、無言で振り返り。
私も無言でうなづく。
理事長がいらっしゃったんだ。
念のため、同窓会館の事務の方にお願いしておいたので、知らせて下さったんだ。
千野先生が一階に降りていき。
遠藤先輩が再び緊張してきた1年生をなだめて。
「大丈夫よ。いつも通り、自然体で」
お師匠さまの微笑みが、心強い。
それから、茶菓子や茶道具を整えて、理事長の来訪を待っていると。
「やあ、お邪魔するよ。活動中悪いね」
艶やかなバリトンボイスが響く。
……今まで間近で見たことがなかったけど、理事長って、イケメン、ていうかイケオジ?
ロマンスグレーというには、まだ若いと思う。
スラリとした、この年代ではわりと身長も高くて、整った顔立ちで。
イギリス紳士ってイメージ。
ティーカップ片手に紅茶を嗜んでいそうだけど、千野先生情報では和菓子好きだっていうし。
「よろしよければ、ご一緒に一服いかがですか?」
予定どおり、お誘いの口上を述べて。
「あ……ああ、それは嬉しいな。えっと、君は」
理事長は一瞬真顔で息を飲み、でもすぐに笑顔になって、そう答えた。
「2年生の中沢と申します」
「ああ、和菓子屋の。いつも便宜を図ってもらっているそうだね。ありがとう」
まさか、お礼を言われると思わなかった。
はにかんだようなその顔は、少しだけ子供っぽくて、和菓子好きって聞いたせいかな? 何だか千野先生に似ている。
見ると、隣にいた千野先生も驚いた顔をしている。
「どうぞお座り下さい」
動揺を何とか押し込めて、席を勧める。
それから、お師匠さまに向き直る、と。
「……先生?」
真っ青な顔で、お師匠さまがうつむいていた。
「先生?」
再び声をかけると、お師匠さまは顔を上げて。
お茶を点てようとして、抹茶のはいった棗に手を伸ばし……誤って倒してしまう。
幸い、蓋は空かず、お師匠さまは慌てて棗を手に取るけど。
その手が、震えている。
「ゆりえ……?」
由利恵。それは、お師匠さまの下の名前。
その声は。
「ゆりえ、なのか? お前、生きて……」
耳に嬉しいバリトンボイスが、震えていた。
目を伏せたままのお師匠さまを、じっと見つめる、理事長。
その後ろで、千野先生が……リクが、目を見開き、硬直していた。




