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突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが  作者: 清見こうじ


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波瀾含みの講習会が気がつけば無事に終わりそうなのはやっぱりフラグなんですか?①

 週が明けて。



 水曜日、いよいよ講習会の日になった。


 原則水曜日は、5時間授業なので(他の日は6時間)早く放課後になるから、毎日部活がないところもこの日に活動することが多い。


 茶道部も、他の日は各自でお稽古したり、時にはおしゃべりで終わってしまうこともあるけど、水曜日だけは予定を組んで活動している。



「本日はよろしくお願いいたします」


 同窓会館の作法室に行く前に、控え室としてお借りした小会議室にお師匠さまを案内して。


 遠藤先輩が部長としてご挨拶し。



「あの、もしかしたら講習会の最中に理事長がおいでになるかもしれませんが」


「はい。茶朋さんから聞いていますよ。何でも新しい方に交代されて、色々厳しい方だとか。皆さんが困らないよう、失礼のないようにご協力させていただきますね」


 ふんわり微笑むお師匠さまに、遠藤先輩もほっとしたように表情を和らげる。



「じきに顧問の教員も参りますので、しばらくこちらでお待ち下さい」


 そう言い残して、遠藤先輩は準備のため2階の作法室に向かう。



 私はお師匠さまのお相手と、千野先生の紹介のために部屋に残っている。



「顧問の先生とおっしゃると、この間の男の子のお兄様、でしたよね?」


「はい。実は今、うちのお店にお茶菓子を持ちに行って下さっていて……」



 本当はお姉ちゃんが届けてくれることになっていたんだけど、今日、急に体調を崩してしまい。


 折り悪く、大きな注文が急に入って、届けられる人がいなくなってしまい。


 今日はお菓子を受け取るためにスマホの持ち込み許可をもらってあったけど、連絡が来てビックリしちゃった。


 備えあれば患いなし、とは言うけど、普段は元気なお姉ちゃんなのに、心配だな。



『色々便宜を図ってもらっているのはこっちだから、こんな時ぐらいお手伝いするよ』


 と、千野先生自らお菓子の受け取りに出向いてくれたんだ。

 

 私が取りに行くって言ったら、時間がもったいないし、5時間目に授業もないからって、同僚の先生に車を借りて。


 そろそろ戻って来ると思うけど。


 お母さんにもし問い質されたら、お師匠さまと同じく彼氏のリクのお兄さん、って言い訳するって言ってたけど……大丈夫かな?



「遅くなりました。お待たせいたしました」


 ヤキモキしながら待っていると、先生が会議室に顔を出す。



「お帰りなさい。ありがとうございました。あの、こちらが……」


「お初にお目にかかります。茶道部の顧問をしております、千野と申します。この度は、不躾なお願いをいたしまして恐縮です。お引き受けいただきましてありがとうございました」


 脇の長机に荷物を置くと、サービス全開! というくらい甘い爽やかな笑顔で、千野先生は挨拶の口上を述べる。


 お師匠さまも自己紹介して。


「こちらこそ、お役に立てるよう誠心誠意お手伝いさせていただきますわ。……そちらは、今日の?」


 柔らかく微笑んだあと、お師匠さまは千野先生が持ち込んだ荷物……うちのお店の名前とロゴが入ったプラスチックのケースに目をやる。


「ええ。お店で見せてもらいましたが、なかなか素晴らしいですよ。説明も承って来ました」

 

 千野先生が、ケースを開けると、2種類の上生菓子が並んでいた。


 2種類あるので、2回お稽古をすることも可能だけど、今日は一緒にいただくことになると思う。


「これは、薔薇の練り切りと、……唐衣? にしては、赤みが強いですね」


 さすがお師匠さま、一発で意匠を言い当てる。


 丸く成型した淡いピンクの練り切りに切れ込みを入れた『薔薇』。今日は主菓子が2種あるので小さめに拵えてある。



 もう1種類は。



 薄く伸ばした白い求肥餅を花びらに見立てて折り畳んだお菓子。中の餡が透けて見える。


 かきつばたを模した『唐衣』なら、それは薄紫なんだけど。


 今日用意されたものは、濃いピンク色。


「ええ。僕もそう思いました。秀さん……この菓子を拵えた職人さんに『食べたらわかる』と謎かけされてしまいまして。答えは、こちらだそうです」


 先生は胸ポケットから、封書を取り出す。


「せっかくなので、おすすめ通り、食べてから確認したいと思いますが、よろしいでしょうか?」


「そうですね。先に答えを見てしまうのは野暮というものですね。お楽しみにしておきましょう」


 二人とも私に確認しようとしないのは……まあ、見事に性格把握されているってことなんだよね。


 どうせ顔に出るから、教えてもらってないって。


 まあ、その通りだけど、さ。



 一足先にお菓子を持って2階に上がる先生を見送って。



「本当に、よく似ているわね。お兄さんは、逆に年よりお若く見えるけど」


「そうですね」


 はい、同一人物なので。

 なんて、口に出せないし、でもちょっと挙動不審に目を逸らしてしまった。



「あら、照れてるの? そう言えば、彼もこの学校の生徒さんなのよね?」


「あ、いえ、実は、違うんです。別の……男子校で」


 念のため、リクが本当に通っていた高校も教えてもらってある。近くはないけど、通学圏内の名門男子校。


「そうなの、あそこの……そうね、桜女の生徒さんのご兄弟がよく通われているものね」


 学校名だけで、お師匠さまは、妙に納得されていて。


 まあ、なれそめとか訊かれたらボロが出そうなのでよかったけど。


 







 

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