経済観念について認識の違いが大きいのは割りと問題点だと思います!②
「……リクの、アパート?」
高層ビルではないけど。
鉄骨5階建ての真っ白なこの建物は、普通、マンションって言うんじゃないの?
「え? だって賃貸だよ? アパートだよね?」
え? アパートの定義って?
て言うか、賃貸が全部アパートなら、賃貸マンションって言葉はないわけで、あれ?
でも、アパートって、あれだよね?
2階建てとか3階建てくらいで、外階段とか付いてて、ばあっとドアが並んでいて、あれ?
考えたら、余計に分からなくなってきた。
でも、絶対豪華なこんなエントランス付きのキラキラした建物をアパートって言わない気がする!
「え? だって部屋だって1つしかないし」
そう言うのは、ワンルームマンションって言うんじゃないでしょうか?
忘れていたけど、リク、お坊っちゃまだった。
経済観念が違う気がする。
え? 大丈夫? 私達。
不安を抱きながら、美術鑑賞して。
猫をテーマにしたかわいらしい絵画と造形展示は、とっても素敵だったけど。
最初のデートで、雑貨屋さんで猫が好きって言った私の言葉を覚えてくれていたみたい。
それは、嬉しかったんだけど。
なんとなく、集中しきれなかった。
帰りに美術館のとなりに併設されたミュージアムカフェでお茶をしていると。
「……うん、賃貸は全部アパートだって思い込んでいた。確かにあれはマンションだ」
私のショックが顔に出ていたのか、リクも気になってネットですぐに調べたみたい。
「厳密な定義はないみたいだけど、一般論からしたら、確かにマンションだった」
思い込み、なら仕方ないか。
「ガキの頃、家の事情で賃貸に引っ越ししたヤツを、クラスメートが『アパート暮らし!』ってからかっていたんだよ。だから、『賃貸』イコール『アパート』って刷り込まれていた」
「そのお友達は、えっと、破産とか?」
「いや、家の建て替えで一時的に」
「……そうなんだ」
いや、それって、単なる仮住まいだよね?
たぶん、そのご家庭、普通に賃貸マンション住まいだったよね?
しかも、もしかしたら滅茶苦茶豪華なマンションだよね?
……やっぱり経済格差がある気がする。
「だから、ゴメンって! 俺が世間知らずなの! 念のため言っておくけど、今のアパ……マンションは、ちゃんと自腹で払っているから! 自分の給料の範囲内で賄っているから! 住宅手当てはもらっているけど」
「そのお給料と手当てとか、よく分かんないけど。まあ、それなら……あまりに身分違いなのは、やっぱり、心配だし」
「……一応、言っておくぞ? サホ、自分ち、どう思ってる?」
「へ? 広いだけが取り柄の、古いお家だけど。2階もないし」
「確かに古いけど、造りはしっかりしているし、なんたって広い。しかも、平屋で。あの当たりの路線価考えたら……かなりの豪邸だ。店舗と工場を除いても、な。お前もよそから見たら、老舗の大きな和菓子屋のお嬢様だぞ? お前の回りがお嬢様ばっかりだから、自覚ないのかもしれないけど。それに、今時身分違いとか、時代遅れだよ」
そうだったんだ?!
お母さんもお姉ちゃんとガッツリ働いているし、私も手伝いに駆り出されているけど。
「まあ、労働を尊ぶのは大事だと思うぞ? そもそも桜女は勤労婦人を尊重してきた校風だし」
「前から不思議だったけど、リクって初めから『桜女』って言ってたよね? 卒業生やご近所の方がそうおっしゃるから、私達もついそう呼んでいるけど、なんで?」
先生達も、特に女子校時代からいる先生はそう呼ぶけど、他所から来た若い先生は『桜高』って言う人も多い。
「ああ、うちの母親、卒業生だから」
「あ、やっぱり」
「うん。よく思い出話とかで、楽しかったこと、聴かされて。だから、なんとなくクセになってた。あと、誰も指摘しないし」
まあ、『桜女』って呼称、卒業生にしたらひとつのブランドって言うか、卒業生の誇りみたいなものだって、お母さんも言っていたし。
うちも、亡くなった父方のお祖母ちゃんも、健在の母方のお祖母ちゃんも、お母さんも、お姉ちゃんも、桜女卒の筋金入りだし。
「そっか。もしかしたら、うちのお母さんと会ったことあるかもしれないね、リクのお母さん」
「そうかもな。年、いくつ?」
なんと、2歳違い!
リクのお母さんの方が年下だけど。ニアミス!
校舎のどこかですれ違っていたかも!
経済格差とか、気にしなくていいってリクは言うけど。
共通点は多い方が、色々障害は少ない気がする。
少なくとも、桜女OG同士は、昔のお祖母ちゃん達を見ていても、やたら仲がよかった気がする。
少なくとも、お母さん同士は、仲良くなれるかも……って、私、気が早いから!
でも、リクがお母さんの話をする時は、相変わらずとっても優しい目をするから、きっといい関係性なんだよね。
本当のお母さんじゃないって聴いているけど。
「そのうち、リクのお母さんにも会いたいな」
「絶対会わせる! 絶対サホを気に入るから!」
それから、記念にってリクはミュージアムショップで猫の意匠のメダルの付いた銀のペンダントをプレゼントしてくれた。
裏面に日付と二人の名前を刻印してもらって。
……嬉しい。
こっそり、制服の下に付けちゃお。
お礼と言ってはなんだけど……帰りに、バス停の裏で、リクの頬っぺたに、キス、しちゃった。
「お返し!」
リクからお返しに、キスされた……唇に。
……これは、もらいすぎ? 返しすぎ?
ちょっと、モヤっというか、ムラっというか、ドキドキが止まらないよー!




