観覧車で景色を見ないで他のことに夢中になるのはお約束ですよね?①
ジェットコースターの順番がきて。
メジャーな遊園地のものとは比べ物にならないかもしれないけど、それなりにスリルもあって、楽しかった。
「結構スゴいな。……サホ、平気そうだね」
「うん、楽しかった」
「そっか。後でまた乗ろうか?」
「そうだね」
初めてジェットコースターに乗ったリクも、楽しかったみたい。
そのあと、また行列に並んで他のアトラクションを楽しんだり、屋台でチェロスを買って食べたり。
チェロスは二人で違う味を選んだから、途中でシェアして……って、リクがツッこまないからスルーしちゃったけど、間接キッスしちゃってるし。……黙っていよう。
「あ、サホ、次、あれは?」
ハンバーガーでお昼ごはんも済ませて、次は何を、と散策していると、リクがあるアトラクションを指差した。
「……あ、えっと……」
私は、ちょっと言葉を濁す。
「うん。面白そうじゃない?」
「あ、そう、かな……私は、あんまり……」
私は、他に何かアトラクションはないかな、と目をさ迷わせて。
「あ、あれは? えっと、メリーゴーランド……の向こう……」
急で思いつかず、とりあえず反対方向にリクの意識を向けようと試みる、けど。
「……もしかして、サホ、怖いの苦手?」
「………………うん」
リクが変に喜びそうだから言いたくなかったんだけど。
私、高いのも速いのも平気だけど、……「お化け屋敷」だけはダメなの!
「大丈夫! 怖くないよ! 一緒に入ろう?!」
思った通り、リクはとっても面白そうにニマニマして、私の手を引っ張る。
どうせ、暗闇でイチャイチャしたいだけでしょっ!
私だって、キャーキャー言ってくっつくシチュエーションは憧れるけど!
でも、イヤなものはイヤなの!!
「……サホ?」
「……イヤ……」
どうにも動こうとしない私の様子にリクはちょっと真顔になって振り返る。
私は何とか言葉を振り絞って、拒否を貫く。
その拍子に、思わずぽろっと涙がこぼれた。
ギョッとして、リクは慌ててハンカチを取り出し、私の目元にあてがう。
「……ごめんね? ホントに嫌いなんだね? 行かないから安心して?」
気遣うような優しい笑顔で、頭を撫でてくれる。
「うん。ありがとう。ごめんね」
私も、涙を拭いて、ようやく笑顔になれて。
それから、事情を説明した。
昔、幼稚園児くらいの時に、やっぱり遊園地のアトラクションでお化け屋敷に入った時に、みんなとはぐれて一人きり置き去りにされちゃって、とっても怖かった思い出があるんだ。
大泣きしていたら係の人が外に連れ出してくれたけど、外で心配して待っていたお姉ちゃんも大泣きして。
自分が驚いて走り出したせいで、私とはぐれてしまったことと、そのせいでもう会えなくなったらどうしようって本気で心配していたんだって。
以来、姉妹二人して、お化け屋敷は鬼門になってしまった。
だから、ホラー映画は観られても(どっちかと言えば苦手だけど)、暗いだけの所は平気でも、お化け屋敷だけはダメなの。
そう話すと、リクはちょっとほっとして。
「お化け屋敷以外なら大丈夫なんだよな? 映画館とかカラオケは大丈夫だよね?」
「……心配そうにしているけど、そこはかとなく下心を感じるけど」
「気のせいだよぉ! フフン。そっか、ホラー映画はオッケーか」
「観られるけど、苦手だから! 積極的に観たくないからね!」
「えー? そんなに怖くないのなら? キャーって抱きつくくらいの怖さの。ホラーコメディとかなら」
「……いいけど抱きつかないからね」
「さて、そろそろ最後くらいの時間だし、観覧車行こうよ。本当は日が暮れてからの方が夜景も観られていいんだけど」
「そうだね。そうすると帰りの時間、間に合わなくなっちゃうもんね」
リクが最初からリクエストしていた観覧車は、一周が15分ちょっとの結構大きなサイズ。
一番のおすすめはやっぱり夜景が観られる日暮れ以降なんだけど。
恋人と二人で、この観覧車の夜景を観ると、幸せになれるってジンクスがあるんだよね。
そのせいか、まだ夕暮れ前のこの時間、全体の混雑の割りにはあまり並ばず、スムーズに乗ることができた。
「サホ、好きな方に座りなよ」
リクが私を先に乗せて。
そして、当たり前のように隣に座る、と思ったら。
向かい合わせに、座った。
……いいんだけど、ちょっと拍子抜け。
密室だし、絶対ベタベタ触ってくるって思ってたのに……って、別に触られたい訳じゃないからね!




