存在がありえなーい! ②
「……通り魔みたいにキスを奪って、ついでにちゃーのハートも強奪、か。何か昔のラブソングみたい」
「ちゃーちゃん、趣味も古風だけど、恋愛まで古めかしいのね」
「……そこまで言わなくてもいいじゃないですかぁ!」
涙目で訴えると、高村先輩がよしよし、と頭をなでてくれた。
「こうなったら、その転校生とやら、是非見つけて、茶道部に入れましょう!」
「は?」
「そうね。ちゃーの唇とハートを奪った責任は、取ってもらわないと」
「あの……?」
「ちゃー、始業式に在校生が集まったら、そいつを見つけて、すぐ知らせるんだよ。私達がついていって、話付けるから」
「……?」
「ちゃーちゃんだけだと、うまくかわされちゃうかもしれないしねぇ。……楽しみねえ」
「これが成功すれば、部員倍増どころじゃないね。丁度いい新入生ホイホイになるかも」
え?
えぇぇっ!
かくして。
先輩達の作戦を遂行すべく。
始業式当日。
講堂に入った私は、目を皿のようにして、彼を探した。
入学式は明日だから、今は二、三年生しかいない。
全体で300人位。
それなりに多いけど、広い講堂でゆったりめに並んでいるから、探せないこともない。
私は背の順でも名簿順でも真ん中くらいなので、前後左右は割合よく見える。
けど。
……いない。
新年度の転校生は、クラス替えと同時なので、特別な紹介はされないで朝からクラスに入る、という話だったから、一緒に講堂に並んでいるはずなんだけど。
少ないとはいえ、全員の名前と顔を覚えているわけじゃないので、張り出された名簿を見ても、誰が転校生かなんてわかんないし。
でも、この中に、あの人が、紛れていれば、分かる。
忘れっこない、あの、きれいな顔。
背も高いし、もう、存在自体が、絶対、目立つと思う!
なのに……何で見つからないの?
「静粛に」
その言葉で、ざわめいていた講堂内が、シンとする。
教頭先生が、ステージ脇に立って、マイクで喋っていた。
クラス担任の紹介が始まった。
「……二年C組、担任、チノ・トシヒサ先生」
ふーん、新しい名前だ。
新任なのかな?
新任の先生達が並んでいる方を見ると、まだ若い感じの、男の先生が立ちあがった。
髪をきっちりオールバックに固めて、ノーフレームのメガネをかけて……まるでサラリーマンみたい。
背丈はあるけど、硬そうな感じ。
若い男の先生は割と少ないから、それなりに人気は出るかもしれないな……って?
え?
まさか……。
でも、あの髪をくしゃっとして、前に下ろして。
メガネはずして。
今日は、グレーのスーツを着てるけど、生徒と同じ、紺のブレザーにしたら……。
えぇぇっ?
「スミマセン」
続けて紹介しようとしていた教頭先生をさえぎって、担任のチノ・トシヒサ先生は、手を挙げた。
「名前、違います。センノ・リク、です」
……あの人の、声だ。
昨日よりは少し低めだけど。
…………えええぇぇぇっ!?
先生!?
うそぉ!?
しかも、担任!?
ええええええええええええぇぇぇっっ!!
こんなことって、ありえない!!