初デート中に他の女性に見惚れるなんて許せない!②
「……お前、それ反則だぞ……。急に可愛い仕草するなよ」
「へ? あ、別に狙ったわけじゃないし!」
……どうも上目遣いがいけなかったらしい。
まあ、顔を真っ赤にしながら、とりあえず視線は貴金属から外れた。
「あ、ね、これは?」
見つけたのは、隣のカバン屋さんにあった革製のブックマーク。
「リクは本、好きでしょ?」
「よく分かったな?」
「分かるよ。あんなに詳しいんだもん」
「そっか。……へえ、その場で名前も入れてくれるんだ? せっかくなら、二人の名前、入れる?」
……それは、とっても恥ずかしい。
けど、ちょっと憧れるかも。
結局、リクは紺色、私は臙脂色のブックマークを選んで、『RIKU TO SAHO』『SAHO TO RIKU』とそれぞれに刻印してもらった。
あと、今日の日付も。
どうしよう! もったいなくて使えない!
「ホントは指輪とかあげたかったのになぁ」
「それは、またいずれ。これも、すごく嬉しいから」
「まあ、確かに。俺も嬉しい」
そのあと、バスの時間まで2人でぶらぶら歩いて。
「あら、茶朋さん?」
急に声をかけられ、振り向くと。
「あ、先生?! ……こんにちは」
和服を着た、おっとりとした雰囲気の、中年の女性。
先生と言っても、学校ではなく、茶道のお師匠さま。
今日は浅葱色の訪問着を着ている。
華やかな扇面流しの柄が素敵。
どこかにお呼ばれかな?
「こんにちは。お買い物? ……って、あら、もしかして、お邪魔しちゃったかしら?」
クスッと微笑まれるその視線の先には……リクと繋いだ手。
「あ、いえ! これは!」
「茶朋さんもお年頃ですものね。同級生?」
「………あ、ハイ、はじめまして」
リクが珍しく反応が遅いので、手を引っ張ると慌てて返事をする。
よく見ると、ぼんやりお師匠さまを見ている。
……ちょっと? 何だか顔、赤くない?
確かにお師匠さまは、しっとり和服が似合う、いかにも大和撫子な美人だけど!
その所作に私も見惚れてしまうけど!
デート中にこの反応はないと思う!
「中沢さんとお付き合いしている、センノ、リク、と言います。」
はにかみながら自己紹介するけど、これ、演技じゃないよね?
「センノ……? リク、さん、と仰るの?」
繋いだ手から視線を上げて、挨拶するリクの顔を見て。
ちょっとお師匠さま、びっくりした様子で見つめて、やっと、という感じで声を出す。
「はい」
「……茶朋さんと同級生、なの? なら、今は、17歳くらい、かしら?」
「誕生日がくれば」
「そう、そうよね。ごめんなさい、知り合いによく似ていたものだから……ああ、せっかくのデートなのに、ごめんなさいね。茶朋さん、明日のお稽古でお会いしましょう」
そう言って、会釈しながら、慌てて去っていくお師匠さま。
珍しいなあ。お師匠さま、名前も名乗らず。
あんな風に落ち着きがないなんて。
まさか?! 年の差フォーリンラブ?!
……ってまさかね。
お師匠さま、うちのお母さんよりは若いけど、でも、それほど変わらない。
私くらいの歳の子供がいてもおかしくない年代。
まあ、独身だけど。
っていうか、むしろリク!
「……何よ、ボーッとしちゃって!」
「あ、ゴメンゴメン。だって、めちゃめちゃ好みだったから」
「好み?」
「うん」
デート中に、他の女の人見て、顔を赤らめてボーッと見惚れて、あまつさえ『好み』とか?!
いくら相手がお師匠さまでも、これは許せない!
「……きっと、サホが成長したら、あんな感じになるのかな? って想像したら、つい見惚れちゃったよ」
へ?
「同じ色の着物着ていたせいかな? 何だか、雰囲気がサホそっくり。ああ、あの人が茶道のお師匠さま? だからか。サホ、ずっと憧れていたんだもんな。うん、ちゃんと近付いているよ」
つまり、私と雰囲気が似ていて……だから、好み、って?
……これは、怒るに怒れないじゃない!




