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存在がありえなーい! ①

「どーしたの! ちゃーちゃん!?」


 紙も買わずに戻った私を見て、高村先輩が悲鳴を上げた。


(ひざ)すりむいてるじゃない! 転んだの?」


 あ、ホントだ。

 全然気がつかなかった。



「……大丈夫?」


「……あんまり……」



 それだけ答えるのがやっと。


 ……私の。


 …………初めての、キスがぁぁぁぁっ!


 名前も知らない男の子に、突然キスされた、だなんてっっ!




 ……言えるわけがないぃぃっ!


「とにかく、消毒しなくちゃ! 保健室に行かないとっ!」


「大丈夫です……洗っとけば。血もあんまり出てないし」


 それに、保健室は職員室の隣にあるんだよー。


 今日は養護の先生いない日だし、職員室でカギ借りなくちゃいけない。


 職員室に行ったら……アイツがいるかもしれない!



 あの!


 あの……?



 ……まあ、顔はよかったけど。



 っていうか、めちゃくちゃカッコイイし。


 怒った顔も、きれいだったけど。


 最後に、意地悪にちょっと笑った顔も……今思い返すと、ちょっとドキッとした。



 ……でもっ!



 信じらんない!


 クリーニング代、がわり、ですって?



 一生に1度しかない、大事な初めての、乙女のファーストキスを、あっさり奪っといて!



 何その言いぐさ!


 いくら、顔がよくたって!


 かっこよかったって!




 許せない!





「まあ、顔がいいだけマシじゃない。どーせ見も知らぬ男にキスされるなら、まだ顔はいい方が……」


 結局、問い詰められてキスのことは白状してしまい。


 慰めてくれているつもりなのかも知れないけど、遠藤先輩の言葉にカチンときて、私は言い返す。



「見も知らぬ男限定で考えないでください! どーせ、って何ですか! 普通は、見知った相手でしょ!」



「……言ったな? 私なんか、兄貴なんだからね! まだ赤ちゃんの頃に! 抵抗もできずに! ……記憶に残らなきゃまだマシなのに、うちのバカ親共! しっかり写真撮って! アルバムにまで張り込んで! 年賀状にまでして親戚に配って! 会うたんびに、言われるんだからね!」



 ……それは、なかなかツラいかも。



「……まあ、いいじゃない? えんちゃんのお兄さんだって、カッコイイし」


 のほほんとした高村先輩の言葉。



「「そういう問題じゃない!!」」



 私と遠藤先輩の叫びがハモる。


「だってぇ、そんなこと言いつつ、えんちゃん、お兄さん大好きじゃない?」


 にっこり。

 高村先輩の言葉に、遠藤先輩が言葉に詰まる。


 顔、真っ赤だ……。


 ちょー怖い遠藤先輩に、こんな一面があるなんて……。


 何だかカワイイ。


「……っと! 何ニヤニヤしてんの! 今は、ちゃーの問題でしょ!」


 思わずほくそ笑んでしまった私に、遠藤先輩がビシッと人差し指を突きつける。


 こわっ!


「あんた! そんなこと言いながら、ソイツが気になって仕方ないんじゃないの?」


「な、何で……」


「そうよねえ。ちゃーちゃん、奥手とはいえ、それなりに面食いだもの。それが、痴漢みたいな人に対して『顔はいいけど』って連呼するからには、よっぽど美形だったんでしょね」


「な、ちが……」



「じゃあ、大したことなかったの?」


 にっこり。



 今度は私に向けられた、笑顔光線に……。


 負けた。


「……違いません。すごい美形でした……」


 そう、悔しいったらありゃしない!


 あんなことされたのに!


 そりゃ、スーツ汚したのは、私だけど。


 結果的に……押し倒したりもしちゃったけど。



 でも!


 乙女のファーストキスを!


 クリーニング代、ですって!



 許せない!



 ……でも。



 一番悔しいのが……。


「あ、また思い返しているでしょ?」

「え?」

「ちゃーちゃん、口の端が上がってる。えっちだあ」


 えぇぇっ!

 うそ!


 顔に出てる?


「……だって、カッコよかったんだもん。やっぱり」


 ずーと怒った顔していた、あの人。


 それはそれで、見とれるほどきれいだったけど。



『クリーニング代』


 そう言って、笑ったあの人の顔は……。



「思い出すだけで、ドキドキしちゃうんだもん」



 それが、すごく悔しい。





「……惚れたね」


「……即オチなのね。何て手ごたえのない……」




 反論できません。









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